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部屋の中は、風呂上りらしい石鹸が香る独特の蒸気が立ち込めていた。
部屋のドアが閉まると、めぐみはそのまま手前にあったシングルに浅く腰掛ける。そこから四方を見渡す。よくあるタイプのツインの部屋の形だ。
入ってすぐに決して広くは無いユニットタイプのバストイレがあり、その奥にシングルのベッドが2台無表情に並んでいる。ベッドの向かいにはある程度の距離を持ち、ローチェストのラックがあり、その上に鏡とテレビが置かれている。ラックは鏡台としての機能も兼ねており、椅子が一脚置かれていた。
見た目でも上質と分かる毛足の揃ったバスローブに身を包み、髪の房からは時折、雫が落ちる。
「・・・・・」
藤田がスーツの上着を適当に鏡台の椅子にかけると、煙草に火をつけずに咥えたままバスルームのドアを開けた。
めぐみに対して交わす一言の科白もなく。
――きっと、慢性的な煙草依存なんだろうな。
どうでもいい様なコトをふと考えた。
――いつもぴりぴりしてるしな。
煙草でも吸わないとコントロールできないのだろうか。
ドアの閉まる音。
壁に身体を預け、藤田は煙草に火をつけた。
チリチリと煙草のフィルターの焦げる音と独特の煙。
意味のないその場凌ぎの手段としてこれが幾度使われただろう。
そうすることは最早当たり前で、知らず知らずのうちに恒常を保つ役割。
息を一つ吐き、周りを幾分かゆっくりと眺めた。
トイレが同じフロアにあるユニットバスは、身体を休めるには少し窮屈な広さであった。
まぁ、今日が野宿にならなかっただけが幸いである。
水蒸気で曇る備え付けの鏡を軽く擦る。
何も変わらないいつもどおりの自分が其処に居て、またぼやけていく。
何も変わっていない、いつもの自分と全く変わらないはずだ。
半分も吸っていない煙草を、便器に落とす。
手馴れたように着衣を脱ぎ、シャワーノズルのコックを捻った。
水気をたっぷりと吸った衣服。
やや温めの湯が、一定の水圧で頭上から冷え切っていた身体を濡らしていく。
茶色い髪が濡れ、僅かに色を落とす。
足の爪先や手の指先、本人でさえも気付かないくらいに末端まで酷く冷たくなっていた身体が徐々に温まる。白みの強い肌がやや色を呈する。
――案外、身体が冷えていたんだな。
後輩であるめぐみが田中二郎を捕まえに行っている間はまるで気づかなかった。
ただ、何も意味のない(と、思っている)表現できかねぬ心配を抱えていた。
連絡のつかない状態で、「何か起きたのではないか」と。
それなのに、めぐみの姿を見て安心しても尚、「心配していた」その一言だけが言えなかった。
虚勢を張っていたわけでも、意地になっていたわけでもない。
――言って、何になる。ただ、何も思わなかったはずだ。
嚥下をするように全て飲み込んだ。
――何を考えているんだ。
普段は特別悩まされることもないのに。
――あいつの所為だ。
田中二郎にからかわれたコトが今になって込み上げてくる。
からかわれることは随分と癪に障った。
「・・・ニイサン、あのネエチャンに惚れてるだろ?」
「あのネエチャンのことが気になって仕方ないくせに。
黙って、指咥えて機会を窺うようなタマじゃねぇだろ? あ?」
――締め上げておけばよかった。
常識知らずの(充分に知っていたとしてもその思考を覆してしまう)藤田らしく、思考が一瞬澱んで消える。
目線を落とすと、身体から落ちた湯が渦を作りながら流れていく。
自分が振り回しているのか。
それとも振り回されているのか。
あの日、目の前に現れた彼女に、
いつも自分の短絡な思考に、
そんなわけはない。あるはずがない。
こんなコトはどうだっていい。
「阿呆くさ・・・・・」
声は水の音に消されていった。
コックを捻る。
パタンッ。ドアの閉まる音に顔を上げる。
一層に不機嫌そうな藤田がバスローブを纏って出て来た。
頭にかけられたタオルが、その顔に影を落とすが、その表情は垣間見ることができた。
備え付けの冷蔵庫から缶ビールを取り出すと無言でめぐみに渡し、藤田本人ももう一つのシングルの上に腰を降ろした。プルトップを引き、一気に煽る。
缶はよく冷えている。握っている手にじんわりと冷感が伝わる。
めぐみは口に運ぶこともなく、ただ見つめていた。
「飲めないクチじゃないだろう」
視線を落としたままのめぐみを少しからかうように藤田の口が上がる。
「そうですけど、一応、今って職務中になるんじゃないんですか?」
新米らしい言葉だった。
その言葉に藤田が一瞬笑みを浮かべたコトにすら、めぐみは気づいていない。
「・・・んな、夜までそう生活を拘束されたらこっちの身体が持たねぇよ」
一気に飲み干したらしくその中身が既に無い缶を軽く振りながら、藤田が立ち上がり、
めぐみに手の中で冷たさをほんの僅かに失い始めた缶をとり、プルトップを引いて口をつけた。
「・・・そういうものなんですか?」
そのあまりに速いペースと行動に少し驚きながら、めぐみは藤田に目線を上げるように少し顔を上げた。
「酒が飲みたきゃ飲む、飯が食いたきゃ食う、寝たければ寝る、セックスしたければする・・・それでいいだろ、人間なんて」
彼らしい持論であった。
しかし、其処までスト レートな言葉にめぐみが絶句したことはいうまでもなく。
部屋のドアが閉まると、めぐみはそのまま手前にあったシングルに浅く腰掛ける。そこから四方を見渡す。よくあるタイプのツインの部屋の形だ。
入ってすぐに決して広くは無いユニットタイプのバストイレがあり、その奥にシングルのベッドが2台無表情に並んでいる。ベッドの向かいにはある程度の距離を持ち、ローチェストのラックがあり、その上に鏡とテレビが置かれている。ラックは鏡台としての機能も兼ねており、椅子が一脚置かれていた。
見た目でも上質と分かる毛足の揃ったバスローブに身を包み、髪の房からは時折、雫が落ちる。
「・・・・・」
藤田がスーツの上着を適当に鏡台の椅子にかけると、煙草に火をつけずに咥えたままバスルームのドアを開けた。
めぐみに対して交わす一言の科白もなく。
――きっと、慢性的な煙草依存なんだろうな。
どうでもいい様なコトをふと考えた。
――いつもぴりぴりしてるしな。
煙草でも吸わないとコントロールできないのだろうか。
ドアの閉まる音。
壁に身体を預け、藤田は煙草に火をつけた。
チリチリと煙草のフィルターの焦げる音と独特の煙。
意味のないその場凌ぎの手段としてこれが幾度使われただろう。
そうすることは最早当たり前で、知らず知らずのうちに恒常を保つ役割。
息を一つ吐き、周りを幾分かゆっくりと眺めた。
トイレが同じフロアにあるユニットバスは、身体を休めるには少し窮屈な広さであった。
まぁ、今日が野宿にならなかっただけが幸いである。
水蒸気で曇る備え付けの鏡を軽く擦る。
何も変わらないいつもどおりの自分が其処に居て、またぼやけていく。
何も変わっていない、いつもの自分と全く変わらないはずだ。
半分も吸っていない煙草を、便器に落とす。
手馴れたように着衣を脱ぎ、シャワーノズルのコックを捻った。
水気をたっぷりと吸った衣服。
やや温めの湯が、一定の水圧で頭上から冷え切っていた身体を濡らしていく。
茶色い髪が濡れ、僅かに色を落とす。
足の爪先や手の指先、本人でさえも気付かないくらいに末端まで酷く冷たくなっていた身体が徐々に温まる。白みの強い肌がやや色を呈する。
――案外、身体が冷えていたんだな。
後輩であるめぐみが田中二郎を捕まえに行っている間はまるで気づかなかった。
ただ、何も意味のない(と、思っている)表現できかねぬ心配を抱えていた。
連絡のつかない状態で、「何か起きたのではないか」と。
それなのに、めぐみの姿を見て安心しても尚、「心配していた」その一言だけが言えなかった。
虚勢を張っていたわけでも、意地になっていたわけでもない。
――言って、何になる。ただ、何も思わなかったはずだ。
嚥下をするように全て飲み込んだ。
――何を考えているんだ。
普段は特別悩まされることもないのに。
――あいつの所為だ。
田中二郎にからかわれたコトが今になって込み上げてくる。
からかわれることは随分と癪に障った。
「・・・ニイサン、あのネエチャンに惚れてるだろ?」
「あのネエチャンのことが気になって仕方ないくせに。
黙って、指咥えて機会を窺うようなタマじゃねぇだろ? あ?」
――締め上げておけばよかった。
常識知らずの(充分に知っていたとしてもその思考を覆してしまう)藤田らしく、思考が一瞬澱んで消える。
目線を落とすと、身体から落ちた湯が渦を作りながら流れていく。
自分が振り回しているのか。
それとも振り回されているのか。
あの日、目の前に現れた彼女に、
いつも自分の短絡な思考に、
そんなわけはない。あるはずがない。
こんなコトはどうだっていい。
「阿呆くさ・・・・・」
声は水の音に消されていった。
コックを捻る。
パタンッ。ドアの閉まる音に顔を上げる。
一層に不機嫌そうな藤田がバスローブを纏って出て来た。
頭にかけられたタオルが、その顔に影を落とすが、その表情は垣間見ることができた。
備え付けの冷蔵庫から缶ビールを取り出すと無言でめぐみに渡し、藤田本人ももう一つのシングルの上に腰を降ろした。プルトップを引き、一気に煽る。
缶はよく冷えている。握っている手にじんわりと冷感が伝わる。
めぐみは口に運ぶこともなく、ただ見つめていた。
「飲めないクチじゃないだろう」
視線を落としたままのめぐみを少しからかうように藤田の口が上がる。
「そうですけど、一応、今って職務中になるんじゃないんですか?」
新米らしい言葉だった。
その言葉に藤田が一瞬笑みを浮かべたコトにすら、めぐみは気づいていない。
「・・・んな、夜までそう生活を拘束されたらこっちの身体が持たねぇよ」
一気に飲み干したらしくその中身が既に無い缶を軽く振りながら、藤田が立ち上がり、
めぐみに手の中で冷たさをほんの僅かに失い始めた缶をとり、プルトップを引いて口をつけた。
「・・・そういうものなんですか?」
そのあまりに速いペースと行動に少し驚きながら、めぐみは藤田に目線を上げるように少し顔を上げた。
「酒が飲みたきゃ飲む、飯が食いたきゃ食う、寝たければ寝る、セックスしたければする・・・それでいいだろ、人間なんて」
彼らしい持論であった。
しかし、其処までスト レートな言葉にめぐみが絶句したことはいうまでもなく。
ココは藤田氏、葛藤(?)の章でした(笑)
6のときもなんですが、シャワーシーンがあるのでお色気を求めたかったのですが、あいざわの力量では無理です。
あいざわ紅。
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