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 「どうだ、結構な見晴らしだろう」
2人はシェナの街で最も標高の高い場所に位置する、街の中心広場に来ていた。そこに建っている、昔の貴族が建てたという城の尖塔に登り、街を一望した。緩急様々な斜面と、細い路地が入り組む街並み。街全体が賑やかに踊っているように見える。そして、怪物が残した痕も通りをなぞるようにしてついていた。
「昨日もここら辺を通ったんだ。なかなかの眺めだろう」
塔にいくつか開けられた窓の周辺には観光客達が2人と同じくこの絶景に感嘆の声を漏らしている。
「そうでしょうとも。ここからの眺めはシェナの宝です」
2人の後ろから声がした。モウリアだった。
 シェナ中央の広場は人々の憩いの場であると同時に、貴族が建てたという城は現在は役所として機能していた。当然、モウリアがいるのも道理である。
「朝はお相手できず申し訳ありませんでした。私も職務がありますから」
両手を軽く前で合わせて頭を下げる。コウは、一晩中相手させたくせに、と思わないでもなかったが、黙っておいた。
「どうでした、市長とお会いして」
「え、あ、ああ、はい。ご立派な方ですねぇ」
モウリアの問に答えるタキを横目で見やると、タキの表情も引きつっているのがわかった。
 無理も無い、とコウは思う。何でも正直に言えばどうにかなるほど世の中は甘くは無い。世辞の一つや二つ、なんのことなく言えなければ世間を上手く渡り歩けはしないのだ。ここに来る前――宿で市長に会ったことを思い出した。

 「いやぁ、どうもどうも。ようこそいらした。私がこの街の市長です」
大げさに両手を広げながら部屋に入ってきたのは、90をとうに過ぎたであろう老人だった。禿げ上がった頭が目を刺す。徹夜明けには堪えるまぶしさだった。両耳の上に申し訳程度に乗っている白髪がなぜか切なさを誘う。上は滑らかに禿げているのに、顎鬚は立派なものだった。見事な白で、くるりとカールしており、顎にカタツムリがぶら下がっているようだ。あのカールを伸ばしたら、たいそうな長さになるだろう――コウがふとそんなことを思っていると、市長は強引にタキの手を取り握手をした。手をぶんぶんと振り回しながら、何がそんなにおかしいのか、声を立てて笑っている。
「君が怪物退治屋かね?若いじゃないか。はっはっは。どうかね?退治できそうかね?それはそうと、君若いなぁ。はっはっは。ワシが君くらいの年の頃は――」
若い、若いと連発し、その度に笑う老人の声は、頭にがんがんと響いた。それはタキも同じと見えて、顔が蒼くなっったまま硬直している。老人の後ろで姿勢を正している――おそらく護衛だろう――男は無表情であごを上に反らしていた。
「おやおや、こっちにいる若者は君の仲間かね?こりゃまた、こっちもずいぶんと若いじゃないか、はっはっは。しかし、君たちが本当に強い退治屋だということは、このワシはよく知っているのだよ。たとえ君たちがどんなに若くともな。はっはっは」
対象が自分に移動してきたと知って、コウは思わずたじろいだ。タキにしたのと同じように、手が千切れんばかりに振り回しながら握手を交わす。
「ど、どうも・・・」
とりあえず会釈を返して、隙を突いてさっと手を後ろで組んだ。握り締められていた手が心なし腫れているような気がする。
「昨日も怪物が出たらしいじゃないか?君たちはもちろん怪物退治に出かけたのだろうね?」
「は、はい。しかし、もう少しのところで見失ってしまいました」
「よいよい。それも若さゆえじゃ。はっはっは。しかし、なるだけ早いうちに頼みますぞ。なにぶん民たちも怯えてますのでな。いやぁ、それにしても君たちはお若い――」
タキの返事にまたしても声を上げながら笑いかける。市長が再び自分の若い頃の話をしようとした時、後ろに控えていた男の一人が市長に耳打ちした。
「市長、そろそろ――」
「ん?おや、もうそんな時間か。いやぁ、すみませんなぁ。ワシもこう見えて忙しいもんで。本当、申し訳ないんだが、そろそろ失礼させていただくよ。まぁ、頼みましたぞ。その若さでなんとかしてくだされ。はっはっは」
市長が部屋を出、その笑い声が遠ざかっていくのを2人で聞きながら、どちらともなく口を開いた。
「・・・嵐のようにやってきて、嵐のように去っていくとは、ああいう爺さんのことを言うんだろうな」
「・・・というか、なぜそんなに若さにこだわるのかわからん」
「・・・吸い取られたよな、若さ」
「・・・多分な」
仕事明け以上にぐったりとなった2人は、ふらふらとベッドまで戻るとそのまま眠り込んだ。


 「あのように元気な方にはそうそうお会いしたことはありません。」
切って貼ったような笑顔でタキはモウリアに言った。それはある意味真実であったし、それ以上の他意は無い、とコウは思った。
「そうでしょう。御齢ちょうど98歳におなりですが、まったくお元気な方で・・・」
98。驚きである。それはタキも同じようで、コウと二人、目と口が円を描いた。98のどの辺りが「ちょうど」と言えるのかどうか、聞いてみたい気もしたが、なんだかそこまでの気力がわかなかった。
「市長はどちらに?」
「公邸はこの建物の中にございます。古い建物ですが、広さだけは十分にございますので・・・今は、怪物被害の状況を視察しておいでです」
なるほど、ここはあらゆる意味でこの都市の中心というわけだ。見下ろせば広場にも放射線状に――それぞれの通りへと大きな窪みができている。怪物の跡だ。
――どこから現れるんだ。
昨夜タキが怪物を見たのは曲がりくねった路地でのことだった。路地いっぱいに膨らんだ影が周囲を軋ませながら徘徊していた。この塔から見渡した限りでも、街の主な通りにはあらかた広場にあるのと同じような窪みが残っている。と、いうことは――。
――いるはず、なんだよなぁ・・・。
タキがただ単に自分を観光に連れ出したとは、コウも考えてはいなかった。確かにこの景色は絶景ではあったけれど、仕事が済んでもいないうちから、都市見物をするような性格の持ち主ではない。それに、くもの巣のように入り組んだ通りに残された痕を見れば、自然と考えは怪物のことへと向いてしまう。
「私も、市長ともども怪物が早く退治されることを願っておりますので。なにとぞよろしくお願いいたします」
顔いっぱいに期待の表情を浮かべて、モウリアは言った。街を見下ろしたまま無言になってしまった二人組みを、絶景に魅入っているとでも思ったのだろうか、満足そうに微笑んだ。それでは、と言って、彼も職務に戻っていく。心なし足取りが軽くなったようなモウリアの背を見送りながら、コウはタキに言った。
「どう思う?」
「さぁな。だが、外壁の周りにそれらしきものが無いなら、考えられるのはやっぱり――」
「中、か」
「ああ。だが、一体どこから・・・」
「とりあえず、周りを確かめてみるしかないな。馬車でも雇って・・・」
再び街を臨みながら黙考するタキを横目で見ながら、コウは言った。まだ日は高い。調べるなら今のうちだった。
「金、ないぞ?」
「はぁ? 何で?」
「・・・それはお前がよぉっく知ってるんじゃないのか?」
突然タキの瞳がじっとりとしたものに変わる。明らかにコウを責めているようで、コウは自分の胸に手を当てて黙ってた。
「・・・何をやっている?」
「ほら、よく言うだろ? 『自分の胸に聞いてみろ』って」
「んで、聞こえたか?」
呆れたように息をつき、タキは腕を組みながら、相変わらずの半眼である。
「いんや、何も」
悪びれず言うコウに、タキは額にうっすらと血管を浮き上がらせながら、自分の感情を抑えるように――結局その努力は無駄に終わった――鋭い視線で睨み返しながら、一人塔を降りにかかる。
「お前がこの間壊した魔法具、あれの修理に一体いくらかかったと思ってるんだ」
吐き捨てるように言った言葉に、コウはやっと思い出したかのように、ポン、と手を打った。
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