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 夜。
 太陽がその姿を隠し、闇が地上を支配する時。
 そこにあるのを許されるのは、遙か彼方から儚い光を届ける月と、わずかばかりの魔法の灯。

 石畳の街を巨大な影が動いていく。低いくぐもったような音をたてて、「それ」は坂の向こうへと消えた。
 その姿を見たものは、いない。
 なぜなら、この街は、今は夜が支配する街だから。月明かりだけを頼りに出歩くには、心細い時間帯だった。
 たとえそうでなくとも、この街の人々は夜は出歩かない。夜になると街に怪物がでるという、もっぱらの噂だった。 誰もその姿を見たことがないのに、なぜそんな噂がたったのか。簡単なことだ。朝になるとその痕跡が街のいたるところで見受けられる。
 店のよろい戸を打ち壊し、商品――それは主に、野菜だった――を強奪し、家々の壁に巨大なハンマーで打ちつけたような窪みを残した。
 人々は怪物を恐れ、夜は早々に家に引き込んだ。たとえ、そのことでこの街をさらに寂しく、暗いものにしようとも。



 「強盗に、家屋破壊。物騒な世の中だねぇ」
青年は呆れたように、大げさにため息をついて見せた。大判の紙の束を目の前で広げて、それを眺めている。
「なんだ、コウ。お前でも新聞を読んだりするのか」
湯気が立ち上るマグを二つ、卓の上に置きながら少年は青年に声をかけた。黒髪、黒瞳の少年は、その愛らしい容姿には不似合いな、皮肉った目つきで青年を見やる。少年には目の前の黒緋(くろあけ)色の髪の青年が、新聞で騒がれるような話題に関心があるとは思えなかった。
 新聞、と言っても、その記事の内容の9割は適当に書かれた根も葉もない噂の類である。要は人々に読まれればいい訳で、真実を語る必要はほとんどないといってもいい。というよりも、そもそも人々が問題意識を持って何かをしなければならないような大事は、今のところなかったし、のほほんとした生活の中にちょっとした刺激となるような、そんな話題を提供するのが新聞の役目だった。
 いい加減なものだ、と少年――タキは思う。新聞屋という商売自体、歴史の浅いもので、最初に新聞を発行したのは、小説家を目指していたどこかの空想癖の商人という話もある。各地で商売をしながらそこで仕入れた噂話を、面白おかしく脚色して出版したのが始まりだとか。そんなものだから、記事自体、真実なのかはなはだ怪しい場合の方が多かった。
 しかし、この記事だけはどうやら真実のようである。
「恐怖!シェナの街に怪物現る!!野菜を持って逃走!!!」
見るからに、胡散臭い記事ではあったが、この話はシェナから80ルフィア離れたこの街にも届いていた。この街でシェナから最も近いところに位置する宿屋に、怪物を恐れて逃げてきたというシェナの役人がいるらしい。逃げ出すなど、役人失格もいいところだが、まぁ、彼のおかげでこの話がただの噂ではないということが分かったのだから、あまり責められるようなことはあるまい。なにしろ当人は「逃げ出した」のではなく、「助けを求めに来た」と言っているのだから。
 「馬鹿にするな。俺だって、たまには新聞くらい読むさ。これだろ?うわさの大怪獣」
新聞から目を離し、コウは言った。そのままマグに手を伸ばし、一口啜ったところで「ぉあちぃ!」と叫び、舌を冷やそうと口から出したりひっこめたりを繰り返している。その様子に呆れながら、タキはコウから新聞を取り上げた。
 「どうにも胡散臭い話だと思っていたんだがな、結構抜き差しならない状態になってるらしい。王宮の警備兵たちも得体の知れない怪物とやらに、どうしていいのか手をこまねいてるって噂だ。・・・本当のところは面倒なことには巻き込まれたくないってことだろうけどな・・・」
最後に小さく付け足して、新聞の派手な見出しを目で追う。中央にはでかでかと怪物の想像図が描かれていた。大人3人分ほどもある胴に、長く太い首と尾。凶悪そうな牙に血を滴らせ、小さな目が鋭くこちらを睨んでいる――。
 「大変だなぁ。でも、俺にとっちゃ、自分の舌のほうが心配だけど」
「・・・お前のはほっといたって、直るだろ。俺はお前のそういう抜けたところを直す道具を作りたいんだがな」
腕組みをしてタキは相棒の青年――コウを見下ろす。新聞は几帳面に折りたたんで、卓の上に置いた。じぃっと目の前の青年を観察する。
 「・・・ま、とりあえずなんとかなるだろうけどな・・・」
ため息混じりに言って、タキは上着を着込んだ。全身黒尽くめの格好である。季節は春を迎えようとしているのに、なんとも不釣合いな装いだった。
「あれ、どっか出かけるのか?」
身支度をする少年に、コウは声をかける。並んで歩けば少年より頭ひとつ分身長の高いコウも、今のように、よれよれの古びたソファに深く収まっている時は相手を見上げたようになる。すっかり身支度を終えてから、タキはいまだに座ったままのコウに言った。
「お前も行くんだよ」
「・・・どこに?」
わけが分からない、といった風にコウが訊ねる。タキは顔面に薄く笑みをはいて、卓の上の新聞を指差した。
「行くんだよ。仕事だ」



 依頼人はいかにも役人らしいのっぺりとした顔の男だった。さしたる特徴のないところが特徴と言うか、丁寧に撫で付けられた髪型が多少気になった。どことなくこそこそと辺りを窺うような仕草を見せるのは、男の頼りなさを表しているようにも見える。
宿屋の1階、そこは宿泊客たちの食事をする食堂兼居酒屋となっており、丸い木製の卓がいくつか並んでいる。昼食には遅く、夕食には早い時間帯だったため、人影はまばらだった。
 タキとコウが宿に入るとすぐ、一番奥の卓にうつむき加減で小さくなっている男を見つけた。相手のほうもこちらに気がついたらしく、頭を上げ、軽く会釈する。それが、依頼人だった。案内に来た若い娘を軽く手で制し、二人は不安げな表情で待つ男のもとへと歩いていく。男は立ち上がるとこちらへと手を差し出した。
 「お待たせいたしました」
「あなたが悶着解決屋の方ですか?」
握手を交わしながら依頼人である男は怪訝そうな顔を隠さない。目の前で自分の手を握っているのはまだ年端も行かない少年なのだ。しかも、黒髪、黒瞳、頭の先からつま先まで全身黒尽くめである。その後ろでなんとも面倒くさそうな顔であくびをかみ殺している男もまた、黒で統一された服装で、こちらは髪も瞳もわずかに赤みがかって――光の加減ではむしろ赤に見えた――いる。彼にしてもまだ若く、男が想像していた人物像とはかけ離れていた。
 「そうですが・・・どうかいたしましたか」
「あ、い、いえ。別に・・・」
「シェナの方ですね?・・・さっそくですが、私たちに依頼したいことというのは?」
男に促されるまま席に腰掛けながらタキは相手の目を見た。男の視線はタキから逃れるかのようにあちらこちらと揺れ動いている。
「あの・・・」
何から話せばいいのか分からないのか、男は何度も手を組み換えて、言葉にならない声を発している。
「・・・私はシェナで役人をしておりますモウリアと申します。実は、あなた方にお願いしたいことというのは・・・その・・・」
「――怪物、ですか」
なかなか話の進まない相手に多少の苛立ちを覚えながら、タキは男に代わって言葉を紡いだ。モウリアはその言葉にびくりと肩をすくめたが、先に解決屋の少年がこの単語を口にしてくれたおかげか、その後は割りと安心したように話し始めた。
「頼みというのは、あなた方にその怪物を捕らえてほしいのです。一月半ほど前から商店やシェナを囲む外壁を破壊するものが現れまして・・・。もともと、シェナは細い路地が入り組んだ造りになっていますから、その・・・か、怪物が通るたびに少なくない被害が出ているのです。我々とて自警団を作って街の見回りに当たりましたが、全く歯が立たず――」
「ん?じゃぁ、あんたら、その怪物を見たことがあるのか?」
コウがモウリアの話を遮った。モウリアは一瞬怯えたような、戸惑ったような表情を浮かべ、すぐにうな垂れてこう答えた。
「はい、まぁ・・・ええ、見ましたとも。ですが、あまりはっきりとは覚えていないんです」
「構いません、少しでもその怪物とやらの手がかりになればいいんです」
卓の上で軽く手を組み合わせ、タキが穏やかに促す。モウリアはますます申し訳なさそうに続けた。
「その・・・大きくて、黒くて――」
「それで?」
「・・・どーんと来て、ごごごごっと・・・」
「・・・はぁ?」
「すみません、よくわからないんです。怪物が出たと聞いて、そのまま気絶してしまいましたから」
「なんだそれ。それじゃぁ怪物がどんな姿なのか、ぜんぜんわからないじゃないかよ」
コウが大げさに肩をすくめて見せる。タキはコウを軽く目でたしなめたが、ため息をつかずにはおれなかった。
「本当なんです!信じてください!怪物がいるんです。このままでは街は瓦礫の山となってしまう!!」
二人の若者の様子に、モウリアは必死に言葉を募らせた。その顔からはすでに血の気が失せて、青白くなっている。
「誰も信じないとは言ってませんよ、モウリアさん。もちろん、依頼は引き受けます。その点は安心してください。とにかく落ち着いてください、ね?あなたに僕たちをシェナまで案内していただかないと、僕たちは仕事ができない」
微笑んで言うタキに、コウは伸びをして椅子から立ち上がった。頭をかきながら、ほとんど泣き顔でタキの手にすがるモウリアに自信に満ちた顔で告げた。
「急いだほうがいいんだろ?俺たちは初めからあんたの依頼を受けるつもりでここまで来たんだ」

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