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 シェナはこの街から80ルフィア南に位置する古い商業都市である。小高い丘の上に広場を構え、そこから放射線状に大通り――といっても、馬車が2台すれ違うのがやっとの細い道だが――がいく本か通っている。それらを結ぶように小路が網の目のように入り組んでいた。丘陵地帯のこの街は平坦な道など皆無に等しく、緩急さまざまな坂で形成されている。
 タキやコウが住むこの街もそうだが、大陸の概ね南西に位置する都市は年間を通して温暖かつ、乾燥した気候であり、街は石やレンガで造られている。シェナの中心の広場には何百年も昔に貴族が建てたという石造りの城があり、街で最も高いといわれる城の尖塔から見える景色は、世界絶景100選にも数えられる有数の眺望を誇っていた。坂道が移動に困難だったのか、それとも昔ここを支配していた貴族が無欲だったのか、シェナの都市面積はそれほど大きくない。代わりに建物が上へと伸びることで人口を支えていた。そのため、シェナの街に一歩入ると、通りと同じように切り取られた空がくねくねと曲がって伸びていくのを見ることができる。

 「うぉ、すっげーな」
外壁から一歩中へ入ると、そこはシェナの街である。夕暮れを間近に控えたこの街は、慌しく人が往来している。行き交う人々に目を見張りがら、ふと振り返ったとき、外壁の内側が丸くくぼんでいるのに気がついた。
 コウはその窪みに近づきながら、それが自分の体よりも格段に大きいサイズであるのを確かめた。
「それが一番最近残された怪物の跡です」
言いながら恐ろしくなったのか、モウリアは窪みから目をそらした。
「でかいな」
タキも近寄ってその窪みを見上げる。きれいな円形を描いた窪みから、パラリと小石が欠け落ちた。
「ここだけではありません。外壁の周辺や、その近辺の商店、路地などが、ことごとく破壊されてます。ご覧になりますか?」
「あ、いや・・・大体はこれと似たようなものなんですよね?」
「はい。あるものは商店の鎧戸に。またあるものは路地に何かを引きずった痕のように。破壊された商店からは商品である野菜が根こそぎ盗まれています」
どうやら新聞に書かれていたことはかなり、というかほとんど真実であったようだ。こんな痕を残す得体の知れない生き物が、日が暮れるたびに街を徘徊するのでは、人々も安心して暮らせはしないだろう。
「もうすぐ日暮れです。とりあえず、宿のほうにご案内いたします」
モウリアは我慢しきれないといった風に歩き出した。彼も日暮れが恐ろしいのだ。たとえ、怪物退治を引き受けた解決屋が傍にいたとしても。
 「なぁ、あれなんだと思う?」
コウはさっさと歩いていくモウリアの後ろにつづきながらタキに尋ねた。同じようにモウリアの後ろを歩いていたタキはコウの指差す方へと視線を向けた。
 黒い土の塊のようなものが路肩に転がっている。ちょうど自分の拳と同じくらいの大きさだ。
「さぁな。土じゃないのか?」
思ったままを口にしたが、確かに釈然としない光景ではあった。石畳の上に、土の塊。コウも納得いかない様子で頭をひねっている。
「さぁ、こちらです。早くいらしてください」
モウリアがこちらを振り返って叫んでいた。彼との距離がずいぶんと開いてしまっている。タキとコウは再び歩き出した。
 何気なく脇の通りへと目を向けると、炎のように光る太陽が、腕を広げる夜への最後の抵抗のように美しく輝いて、その光が路地一杯に広がっていた。



 宿はシェナの広場から程近いところに用意されていた。窓からは、広場とそれを見守るようにしてそびえている尖塔が見える。太陽はその大半を地平の彼方に隠し、オレンジ色の光を微かに残すのみとなった。宿が面している通りに目を向けると、慌しく家路を急ぐ人々の影も徐々に途切れ始めている。最初に街に入ったときの賑やかな印象とは対照的に、街は何かにおびえるようにじっと息を潜めていた。
 「いやぁ、申し訳ありません。実は市長があなた方にお会いしたいと申しておりましたのですが、日が暮れてしまい、こちらへ伺うことが出来なくなってしまいました。市長からもぜひお力をお借りしたいとの話で、明日にでもこちらへ参りますので、今日のところは旅の疲れをゆるりとおとり下さい」
建物の中に入って安心したのか、それでも申し訳なさそうにモウリアは言った。二人にあてがわれた部屋は広くはないがこざっぱりとしていて、こんな怪物騒ぎがなければ観光客が大きなトランクとともにくつろいでいる、そんな光景を容易に想像できる部屋だった。ただし、今この部屋にいるのは黒尽くめの二人組みと、なぜかいつも申し訳なさそうにしているこの街の役人だった。大きなトランクも何もない。
 「旅の疲れなんて、ないけどな。馬車で来たんだし。さすがに、こっちに着いたのは日暮れ直前だったけど」
80ルフィアという距離は、馬車で2時間半ほどかかる。途中、街道を危険がない程度にとばしてきたが、もともとモウリアに会ったのが昼をとっくに過ぎていた時分なのだから、日暮れ前に着けたのはむしろ上出来といえる。
 コウは足を投げ出すようにしてベッドに腰掛け、続けた。
「怪物だって、夜にならないと出てこないんだろ?観光が出来るわけでもないし、のんびりするさ」
「それより、モウリアさんこそ大丈夫なのですか?もう日が暮れましたが。帰宅なさらないんですか?」
タキが、手を後ろのほうで支えにしてだらしなく座っているコウを横目で見ながら、聞いた。モウリアは――無意識なのだろう――頭を撫でつけながら答えた。
「はい。私も今日はこの下の階に部屋をとりました。日が暮れてから外を出歩くのはどうにも恐ろしくて・・・では、何かあったら、いつでもお呼び付けください」
軽く頭を下げて部屋を出て行くモウリアを見送って、コウはタキに声をかけた。
「何かあったら、って、呼んでも大して役に立ちそうもないやつだったな」
「そう言うな。誰だって、得体の知れない怪物が自分の家の周りをうろうろしていたら、恐いと思うだろう。それより、結局その怪物の手がかりになりそうな情報はつかめずじまいだったな」
「まぁいいさ、どうせ、黙ってたって、向こうから正体を現すだろ。なんたって、『どーんと来て、ごごごごっと』、だからな」
コウはモウリアの口真似をして、笑った。タキもつられて笑みをこぼす。
「今夜も来るかな」
真顔になって、タキは外を見た。辺りは闇に包まれて、どの窓もしっかりと雨戸が閉まっている。明かりが漏れる隙間もない。
「さあな。この街の人間にとっちゃ来ないほうがいいんだろうけどな・・・」
出来ればさっさと帰りたい。暗にそう言って、ごろりと横になる。
「とりあえず、寝とこうぜ?俺たちが動くのは、他の人間が眠っている時間なんだからな」
今寝ておかないと、割に合わないとでも言うように、コウは頭まで布団をかぶった。
 いつも寝ているじゃないか――ふぅっとため息をついて、タキは灯りを消した。部屋の中が夜に染まる。
 雨戸は開けたままにしておいた。いつでも仕事にかかる準備は出来ていた。



 黒い影が街を横切る。
 影の後には深い溝が刻み込まれていた。
 ゆっくりと影は広場の端までやってくる。
 もしも、この光景を見ていた者がいたとしたら、おそらく我が目を疑った後、こう言うのだ。「ああ、やっぱり夢か」と。
 影は消えていた。広場の隅で。広場からのびる幾本かの、すべて下り坂の通りのその一つから、街中へ下ったのかもしれなかった。
 ただし、一瞬にして。
 その姿を見たものはいない。しかし、どこからか聞こえる、みしみしと何かがきしむような音に街中が怯えていた。

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