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会話の途中からタキに異変が起こり始めていたのは少女も気がついていた。全身の輪郭がぼやけて次第に闇に紛れていくようにあやふやのものとなっていく。そのことに不安を覚えなかったのは、その少年がなんだかんだ言いながらも絶対の信頼を寄せている青年がその現象を理解しているような表情をしていたこと、なにより、タキ自身がその変化を余裕の笑みを以って受け入れていたからだった。
「…え?タキ…君?」
ついさっきまで少年が立っていたところで一羽の鴉が漆黒の翼を輝かせながらこちらをじっと見つめていた。鴉はばさっと大きく一度羽ばたいて空へ舞い上がると目の前の重厚な屋敷を囲む高い塀を越えていった。
「そうだよ。タキは夜になると鴉に変身しちまうんだ。まぁ、色々あってな…」
なにが起こったのかいまいちよく把握していない様子の少女――ユリスに、鴉が飛び立つのを見送った青年――コウが答えた。ユリスは俯いて沈黙する。
「…すっごいじゃな~い!タキ君てば、いつから変身できるようになったの?きゃーかっこいい!」
すぐさまその沈黙を破って、輝かせた顔を上げたユリスは手を叩いた。タキの予想通りの展開にくらっと眩暈を感じたが、コウはユリスに静かにするように身振りで合図する。あっと気がついたようにユリスが軽く舌を出すのを見ながら、コウはユリスを自分の横へと手招きした。
「入るぞ。できるだけ俺から離れないでくれ。それなりに数がいるみたいだからな」
「どうしてわかるの?」
「これだよ」
そう言ってコウは自分の左側の髪を掻き揚げる。コウの耳に小さな筒のようなものが入ってるのをユリスはみとめた。
「耳栓なんかしてるの?」
ユリスの問いにその場に転びそうになりながら、コウは苦笑して答える。
「ちがうよ。タキが創った魔法具の一つ。あいつと繋がってて意思の疎通が図れる。増幅具系の魔法具とは違うから、魔法の消費量も最小限に抑えられる」
「すごーい。タキ君天才」
ユリスは、コウの囁くような声につられたのか、小さな声で歓声を上げた。
「まあな。その点に関しちゃ、俺も同感だ」
その点に関しちゃ、というところをやけに強調してコウは相槌を打つ。
「とにかく、裏門の二人を何とかしなくちゃな」
言って、脇道からさっと姿を現す。ユリスはコウに続いて裏門前へ飛び出した。
ごきゅっ。
脇道を飛び出した勢いを殺さないまま、コウは警備兵の一人の側頭に膝蹴りをくらわせた。鈍い音がして、そのまま警備兵が倒れこむ。
「あと一人」
振り返りざま、残る警備兵をかたずけようとしたその時、標的であったはずの警備兵が冷たい地面へと崩れるところだった。
「へ?」
見ると、ユリスが手をはたきながら、一丁あがりという風に微笑んでいた。冷たい夜風に吹かれながら警備をしていた二人の兵士は、一言も喋る間を与えられることなく、混沌の夢の中へと落ちて行った。
「やるじゃん」
心底感心してそう言うと、ユリスはハンタ家当主たる者、武道の一つや二つ心得ていて当たり前なのだと答えた。
「小さい頃からずっと習わされてきたからね…」
結構自信あるよ?と大きな瞳を悪戯っぽくコウに向けてくる。
「まぁ、腕が立つのはわかったが、できればあんまり俺から離れないでもらいたいね」
万が一の事態になりでもしたら、タキに殺されかねない。第一、報酬を支払ってもらえなくなってしまう。
「わかってるって」
自分の頭ほどの位置にあるコウの肩をぽんぽんと叩きながら少女は言った。本当にわかっているのかどうかはなはだ怪しいものではあったが、コウはとりあえず頷くことにする。
「やっぱ閉まってるか」
いかにも重たそうな門扉を軽く押してコウは呟く。可哀相に、この二人の警備兵は夜中の間中屋敷から締め出されて仕事をしていたというわけだ。足元に転がる二つの大きな男を見やって、少しだけ哀れみを覚えた。
「鍵、持ってないみたいよ」
ユリスが男たちの服を探りながら言ってくる。もしも彼らが倒されたとしても、侵入者がそれ以上敷地内に入って来れないようにするためのものだろう。
「…じゃ、越えるしかねーな」
言って、コウは小さな掛け声とともに跳び上がる。
「すご…」
ユリスは常人とは思えない高さまで跳び上がった男を見上げて思わず言葉を漏らした。コウは5mはあろうかという高さのグリュニー邸裏門を軽々と越えていく。
「……」
門の向こう側から、先程と同じような鈍い音がいくつか聞こえ、ウギョッとも、グエッともつかぬ奇妙な声がしたかと思うと、ゆっくりと門が開いた。
「来るんだろ?」
当然のように門の向こう側でユリスを待っていたのは、闇夜に浮かび上がる暗赤色の髪の青年。ごくりと唾を飲み込んで、ユリスは一歩を踏み出した。
「…え?タキ…君?」
ついさっきまで少年が立っていたところで一羽の鴉が漆黒の翼を輝かせながらこちらをじっと見つめていた。鴉はばさっと大きく一度羽ばたいて空へ舞い上がると目の前の重厚な屋敷を囲む高い塀を越えていった。
「そうだよ。タキは夜になると鴉に変身しちまうんだ。まぁ、色々あってな…」
なにが起こったのかいまいちよく把握していない様子の少女――ユリスに、鴉が飛び立つのを見送った青年――コウが答えた。ユリスは俯いて沈黙する。
「…すっごいじゃな~い!タキ君てば、いつから変身できるようになったの?きゃーかっこいい!」
すぐさまその沈黙を破って、輝かせた顔を上げたユリスは手を叩いた。タキの予想通りの展開にくらっと眩暈を感じたが、コウはユリスに静かにするように身振りで合図する。あっと気がついたようにユリスが軽く舌を出すのを見ながら、コウはユリスを自分の横へと手招きした。
「入るぞ。できるだけ俺から離れないでくれ。それなりに数がいるみたいだからな」
「どうしてわかるの?」
「これだよ」
そう言ってコウは自分の左側の髪を掻き揚げる。コウの耳に小さな筒のようなものが入ってるのをユリスはみとめた。
「耳栓なんかしてるの?」
ユリスの問いにその場に転びそうになりながら、コウは苦笑して答える。
「ちがうよ。タキが創った魔法具の一つ。あいつと繋がってて意思の疎通が図れる。増幅具系の魔法具とは違うから、魔法の消費量も最小限に抑えられる」
「すごーい。タキ君天才」
ユリスは、コウの囁くような声につられたのか、小さな声で歓声を上げた。
「まあな。その点に関しちゃ、俺も同感だ」
その点に関しちゃ、というところをやけに強調してコウは相槌を打つ。
「とにかく、裏門の二人を何とかしなくちゃな」
言って、脇道からさっと姿を現す。ユリスはコウに続いて裏門前へ飛び出した。
ごきゅっ。
脇道を飛び出した勢いを殺さないまま、コウは警備兵の一人の側頭に膝蹴りをくらわせた。鈍い音がして、そのまま警備兵が倒れこむ。
「あと一人」
振り返りざま、残る警備兵をかたずけようとしたその時、標的であったはずの警備兵が冷たい地面へと崩れるところだった。
「へ?」
見ると、ユリスが手をはたきながら、一丁あがりという風に微笑んでいた。冷たい夜風に吹かれながら警備をしていた二人の兵士は、一言も喋る間を与えられることなく、混沌の夢の中へと落ちて行った。
「やるじゃん」
心底感心してそう言うと、ユリスはハンタ家当主たる者、武道の一つや二つ心得ていて当たり前なのだと答えた。
「小さい頃からずっと習わされてきたからね…」
結構自信あるよ?と大きな瞳を悪戯っぽくコウに向けてくる。
「まぁ、腕が立つのはわかったが、できればあんまり俺から離れないでもらいたいね」
万が一の事態になりでもしたら、タキに殺されかねない。第一、報酬を支払ってもらえなくなってしまう。
「わかってるって」
自分の頭ほどの位置にあるコウの肩をぽんぽんと叩きながら少女は言った。本当にわかっているのかどうかはなはだ怪しいものではあったが、コウはとりあえず頷くことにする。
「やっぱ閉まってるか」
いかにも重たそうな門扉を軽く押してコウは呟く。可哀相に、この二人の警備兵は夜中の間中屋敷から締め出されて仕事をしていたというわけだ。足元に転がる二つの大きな男を見やって、少しだけ哀れみを覚えた。
「鍵、持ってないみたいよ」
ユリスが男たちの服を探りながら言ってくる。もしも彼らが倒されたとしても、侵入者がそれ以上敷地内に入って来れないようにするためのものだろう。
「…じゃ、越えるしかねーな」
言って、コウは小さな掛け声とともに跳び上がる。
「すご…」
ユリスは常人とは思えない高さまで跳び上がった男を見上げて思わず言葉を漏らした。コウは5mはあろうかという高さのグリュニー邸裏門を軽々と越えていく。
「……」
門の向こう側から、先程と同じような鈍い音がいくつか聞こえ、ウギョッとも、グエッともつかぬ奇妙な声がしたかと思うと、ゆっくりと門が開いた。
「来るんだろ?」
当然のように門の向こう側でユリスを待っていたのは、闇夜に浮かび上がる暗赤色の髪の青年。ごくりと唾を飲み込んで、ユリスは一歩を踏み出した。
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