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 「ぬぁにぃ~!魔法が使えなくなったぁああああああああ?!」
少年の絶叫に合わせて、細切れになった麺が宙を舞う。
「っうっわ!汚っねぇ!そんなに大声出すことじゃないだろ」
少年の向かいに頬杖をついて座っていた男が、頬に張り付いた一筋の麺を抓んで放った。
「これが叫ばずにいられるか!どうすんだよ?それじゃあ商売が出来ないだろうが!」
相手の他人事のような無関心な態度にますます顔を赤くして少年は卓を――やっとありついた二人の今日の食事がのったままの卓を思いきり叩きつけた。
「まぁ落ち着けって。興奮のし過ぎは体に良くないぞ?別に、すぐにどうこうなるってもんじゃなし…」
相変わらず頬杖をついたまま、男は片手をひらひらと振って、相方である少年を宥める。
 昼時の食堂は人でごった返していた。こんな小さな店によくもこれだけの人間が入れるものだと思う。相方は何かにつけて仕事の事を持ち出すが、実際、自分にとってそんなことはさほど重要なことではなかった。とにかく、二日ぶりの食事にありつけたのだ。相方が何と言おうと、この汁麺だけは死守しなければ。大体、魔法が使えなくなったなんて、そうそうあることじゃないし、そんなことが起こってしまって一番訳がわからないのは、他でもない、その魔法が使えない自分なのだ。その自分にどうしようも出来ないことを、誰かがどうにかできるはずも無く、それならば動揺するだけエネルギーの無駄というものだ。
 こういう時は食うに限る。空腹のままでは考えるものも考えられない。案外、魔法が使えなくなったのだって、空腹が原因かもしれない。
 男は麺をすすり始めた。ずるっ、ずるずる。麺をくわえたまま、上目遣いに向かいの少年を見やる。何とか席に座りなおしたものの、ものすごい目でこちらを睨んできていた。鬼の形相とは今のあいつのことだな――埒もないことを考えながら、麺をすする。少年も彼に呆れたのか、すでに諦めているのか自分の分をすすり始めた。
 雑然とした店内の喧騒にまぎれて二人の麺をすする音が聞こえていた。

 「で?どうすんだよ?」
幾分落ち着いたのか、少年はごくりと麺を飲み込んで男に聞いた。
「さぁ…」
「さぁ…ってコウ、お前のことだぞ?」
「いやぁ、だってわかんないもんはわかんないんだしさ。タキだって、たまにあるだろ?」
「…俺はたまにもなにも、そういう事態に陥ったことは一度も無い」
――俺だって、今回が初めてだよ。
むっつりと答える少年――タキを見ながら、コウは毒づく。
 年のころは十四、十五。黒髪、黒瞳の少年はその大きな瞳を相変わらず険しくさせながらコウを睨んでいる。そのコウはといえば、汁に浮いた僅かな具の残りまでしっかりと食べるべく奮闘中だった。黒と呼ぶには幾分赤過ぎる感のある髪と何を考えているんだかさっぱりわからない瞳。二十歳ほどの青年はぶつぶつと何かを言いながら具のかすと格闘している。
「…やめろよ。さすがに卑しいぞ」
タキが呆れた口調で言ってきた。
「いいじゃないか。二日ぶりだぞ?その前は四日間飯が食えなかった。今食っとかにゃ、いつ食えるってんだ」
「誰のせいだと思ってるんだ?前回も前々回も仕事をサボってたのはお前だろう」
「…とは言うがな、タキ。あの婆さんに異常に懐かれてたのはお前だぞ?その前は無駄に大きい亀に懐かれてたっけか。おかげで俺も動きづらいったらなかった」
汁の一滴まで飲み尽くしてコウは反駁する。この黙って座っていさえすれば愛らしい容姿の相方は、動物と奥様方に非常に『うけ』が良い。お陰で、こっちの都合を無視しまくってお客が余計な気を利かせてくれたりするものだから、仕事がやりづらいことこの上ない。
「俺だってうんざりしてるんだ。とにかく、あの婆さんのことは言わないでくれ。身の毛がよだつ…」
うげーっと額に皺を寄せてタキは言った。コウはそんなタキの表情を笑いたい気持ちで一杯だったが、手近にあった水をぐいっと飲んで堪えた。
「とにかく、なんとかしなきゃな。仕事があと一件残ってるんだ。たいした仕事じゃないが、コウが魔法を使えないんじゃ厄介だぞ」
「そうは言ってもなぁ。タキの増幅具使ってもダメだったし…」
「…って、あれ試したのか?どうだった?」
コウの言葉にタキがぐぐっと身を乗り出す。
「いや、やっぱ少しでも魔法が残ってないとダメみたいだな」
「…そうか…」
 タキが創り出す増幅具は体内の魔法を一気に高めその効力を普段以上に発揮させることが出来る魔法具だ。人間誰でも体内にいくらかの魔法を持っているが、この魔法具がないと、ほとんどの人間は魔法が使えない。さらに、魔法具にも種類があって、一つの魔法具につき一つの効果しか発揮できない。そして、魔法具の最大の欠点は、体内魔法を瞬間的に高める代わりに一度使うとしばらくは魔法が全く使えなくなることだった。連続使用が不可能な代物なのだ。とはいえ、魔法具の需要は高い。人間の能力を超えた力というものはいつの時代でも必要とされるものだ。製作した魔法具を販売するのがタキのサイドビジネスでもあった。
 「魔法具はもともとお前みたいな人間を考慮に入れて創ってないからなぁ…」
タキがぼやく。
「しかたないだろう。俺は魔法具なしで魔法が使える。いや、この際使えてたって言った方が正確か?…ま、どっちでもいいか。とにかく俺は魔法が使えない。原因は不明だ。ということは、今回の仕事はキャンセルだ」
「そんなことできるか。久しぶりの大口の依頼だぞ?これさえ乗り切れば、当分の間は生活に困らなくてすむ」
あまりといえばあまりな話ではあるが、先ほどの食事が二日ぶりということを考えればタキの言うことはもっともなことに思えた。
「仕方がない。この仕事、請けるにせよ、断るにせよ、一度依頼人に会ったほうが良いな」
タキが立ち上がったのに続いてコウも立ち上がる。二人とも黒系統の色で統一された服を身に着けていた。代金を卓の上に置く。昼食時を少し過ぎた食堂はそれでも賑やかさを残しつつ、こじんまりした雰囲気を取り戻しつつあった。
 タキのあまり気乗りのしなさそうな顔を見て、コウはふと不思議に思ったが、魔法が使えなければ仕事に支障をきたすこともわかっていたので、結局タキの言に従うことにした。

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