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空は厚い雲に覆われ、先程から降り始めた雨は時間を追うごとに強くなる。なんとなく辺りが暗い。
昼過ぎだというのにこの暗さはなんだか恐い。雨が降ると周りの景色はこうも変わるのか。
めぐみは雨が打ち付けられる窓硝子越しにふと、そんなことを感じていた。
ましてや、後部座席の自分の隣に座っているのは時折不気味な声を出して笑う被疑者・田中二郎と、運転席には陽が隠れたためサングラスは外したが、相変わらず機嫌の悪そうな-むしろ絶対機嫌の悪い-先輩の藤田。このメンバーで林道をみんなで楽しくおしゃべりしながら・・・という雰囲気ではない。
「なぁ、婦警サン。すこ~しだけ、縄緩めてくれねぇか」
自分の右隣に座る田中二郎が、そのぎらついた眼をめぐみに向ける。確かにその骨と皮だけのような痩せた身体に結わえ付けられている縄は痛々しい感じもする。
「え、あの、・・・藤田さん」
こういう場合どういった手だてを取ればいいのか分からず、めぐみは藤田をみる。
「緩めたら、只じゃすまないぞ」
『只じゃすまない』つまりは、そういうことだ。
「そ・・・そういうコトなんで我慢してもらえませんか」
うまく返す言葉もなくめぐみは笑う。
「あぁ。仕方ねぇや、ところでよう、・・・フジタサン、東京にはいつ頃着くんだい?」
バックミラーには田中二郎の藤田を見上げる眼が映る。
「まぁ夕方だな」
運転席から立ちのぼる白い煙。・・・既に何本吸ったんだろう。
灰皿から溢れそうな吸殻を見やりながらめぐみは考えた。
「そうかい、俺ぁ、てっきりあの暗い護送車でガタガタ揺られて、家畜みてぇにそのまんま豚箱にぶち込まれる思ったんだけどな。
まさか最期に外車でドライブできるなんてな。・・・VIPみてぇだ」
「喋り過ぎだ・・・オロスぞ」
発された『オロス』が普通の意味でないことはめぐみも何となく承知である。先程の一件のあとから藤田の機嫌が(特に)悪い。確かに警視庁の中でも藤田の私情話-とりわけ家族の話-は滅多にされない、そう思えばツジツマが合う。
ちょうど、群馬県と埼玉県の県境に差し掛かったばかりの道に入った時である。
その頃にはザァザァと降る雨音が車中にまで響く。グレーのずぶ濡れになったレインコートに身を包んだ男が、笛を吹きながら『止まれ』と手で合図している。
「なんだ?」
前から怪訝そうな藤田の声が聞こえて、めぐみは目をこらす。
少し暗がりな中に通行止めの文字がはっきりと見える。
「ちょっと聞いてくる。おい・・・くれぐれも縄、緩めるんじゃねぇぞ」
藤田は新しい煙草をくわえて外に出る。
被疑者と自分の二人。そう思うだけで、背中を嫌な汗が一筋流れた気がした。
「・・・安心しろぃや、婦警サン。別に取って喰うようなマネはしねぇよ」
そうは言っても相手は2人の罪のない人間を殺めた殺人犯。いくら自分が刑事だからと言っても恐くないわけがない。
「・・・それになぁ、あのフジタとか言ったホストみてぇな面したニイサンがよぉ」
藤田はまだ、交通整理をしているらしい男との話がついていない様子。
咥えていたはずのタバコが湿気って、その場に投げ捨てている姿が見えた。
「車に乗ってから何度もオレのコトを睨んできやがる。犯罪者をみる目なんかじゃねぇ・・・ありゃ、あんたに惚れてる目だ。
オレが下手なことをあんたにしないように釘を刺すような、な」
「ま・・・まさかっ!?」
顔が一瞬にして紅くなった気がした。そんなことは有り得ない、言いそうになった口を思わずつぐんだ。
田中二郎はめぐみの反応を楽しそうに見ている。
「なぁ、婦警サン。すこ~しだけ、縄緩めてくれねぇか」
田中二郎は二度目の言葉を口にした。
昼過ぎだというのにこの暗さはなんだか恐い。雨が降ると周りの景色はこうも変わるのか。
めぐみは雨が打ち付けられる窓硝子越しにふと、そんなことを感じていた。
ましてや、後部座席の自分の隣に座っているのは時折不気味な声を出して笑う被疑者・田中二郎と、運転席には陽が隠れたためサングラスは外したが、相変わらず機嫌の悪そうな-むしろ絶対機嫌の悪い-先輩の藤田。このメンバーで林道をみんなで楽しくおしゃべりしながら・・・という雰囲気ではない。
「なぁ、婦警サン。すこ~しだけ、縄緩めてくれねぇか」
自分の右隣に座る田中二郎が、そのぎらついた眼をめぐみに向ける。確かにその骨と皮だけのような痩せた身体に結わえ付けられている縄は痛々しい感じもする。
「え、あの、・・・藤田さん」
こういう場合どういった手だてを取ればいいのか分からず、めぐみは藤田をみる。
「緩めたら、只じゃすまないぞ」
『只じゃすまない』つまりは、そういうことだ。
「そ・・・そういうコトなんで我慢してもらえませんか」
うまく返す言葉もなくめぐみは笑う。
「あぁ。仕方ねぇや、ところでよう、・・・フジタサン、東京にはいつ頃着くんだい?」
バックミラーには田中二郎の藤田を見上げる眼が映る。
「まぁ夕方だな」
運転席から立ちのぼる白い煙。・・・既に何本吸ったんだろう。
灰皿から溢れそうな吸殻を見やりながらめぐみは考えた。
「そうかい、俺ぁ、てっきりあの暗い護送車でガタガタ揺られて、家畜みてぇにそのまんま豚箱にぶち込まれる思ったんだけどな。
まさか最期に外車でドライブできるなんてな。・・・VIPみてぇだ」
「喋り過ぎだ・・・オロスぞ」
発された『オロス』が普通の意味でないことはめぐみも何となく承知である。先程の一件のあとから藤田の機嫌が(特に)悪い。確かに警視庁の中でも藤田の私情話-とりわけ家族の話-は滅多にされない、そう思えばツジツマが合う。
ちょうど、群馬県と埼玉県の県境に差し掛かったばかりの道に入った時である。
その頃にはザァザァと降る雨音が車中にまで響く。グレーのずぶ濡れになったレインコートに身を包んだ男が、笛を吹きながら『止まれ』と手で合図している。
「なんだ?」
前から怪訝そうな藤田の声が聞こえて、めぐみは目をこらす。
少し暗がりな中に通行止めの文字がはっきりと見える。
「ちょっと聞いてくる。おい・・・くれぐれも縄、緩めるんじゃねぇぞ」
藤田は新しい煙草をくわえて外に出る。
被疑者と自分の二人。そう思うだけで、背中を嫌な汗が一筋流れた気がした。
「・・・安心しろぃや、婦警サン。別に取って喰うようなマネはしねぇよ」
そうは言っても相手は2人の罪のない人間を殺めた殺人犯。いくら自分が刑事だからと言っても恐くないわけがない。
「・・・それになぁ、あのフジタとか言ったホストみてぇな面したニイサンがよぉ」
藤田はまだ、交通整理をしているらしい男との話がついていない様子。
咥えていたはずのタバコが湿気って、その場に投げ捨てている姿が見えた。
「車に乗ってから何度もオレのコトを睨んできやがる。犯罪者をみる目なんかじゃねぇ・・・ありゃ、あんたに惚れてる目だ。
オレが下手なことをあんたにしないように釘を刺すような、な」
「ま・・・まさかっ!?」
顔が一瞬にして紅くなった気がした。そんなことは有り得ない、言いそうになった口を思わずつぐんだ。
田中二郎はめぐみの反応を楽しそうに見ている。
「なぁ、婦警サン。すこ~しだけ、縄緩めてくれねぇか」
田中二郎は二度目の言葉を口にした。
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