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第1章 2 

 始業5分前を告げるチャイムの音が、校舎内に響き渡る。がやがやとふざけながら、固まりとなって廊下を歩いてくる男子生徒たちを、鬱陶しそうによけながら、那智は歩いた。頭に響くような高い声で、お互いの彼氏のことを話している生徒や、雑誌のモデルで、誰がかっこいいかを言い合っている生徒。教室の内と外で繰り広げられる光景は、いつもと変わらない日常の一こまだった。
 そして、自分たちの教室へと向かう人の流れとは逆に、生徒玄関の方へと歩いていく那智の姿を見咎める者もほとんどいなかった。那智が学校をさぼる光景さえ、日常のごくありふれた風景の一つだった。見るからに何も入っていないぺちゃんこのカバンを肩にかけ、すっかり柔らかくなったローファーを履く。そのまま外に出れば、まぶしい太陽が、屋上にいた時と変わらず、世界を照らしていた。

 学校は街並みを軽く見下ろせる程度の、丘の上に建っていた。自然、家へ帰るには緩やかに続く坂道を下らなければならない。校庭を囲むフェンスと、斜面を固めているコンクリートの壁を右手に、朝と夕方の出勤、通学時にしか車も人も通らない道路を左手に、那智はぶらぶらと帰路についた。
 授業が始まったのか、学校はすっかり静かになっている。自分がいない事がたいしたことではないかのように、授業を進めていく初老の教師の姿が目に浮かんだ。

 「かなや、なち――さんですね?」
突然のように降りかかった自分の名に、那智は声のした方を振り返る。
「あんた、誰?」
その男はサングラスで顔を隠していた。少し長めの髪――雨の雫で濡らしたかのような艶やかな髪だった――を一瞬風にそよがせて、その男は那智の後ろに現れた。
 気配を感じなかった。何者か。もう一度問う。
 「怪しい者ではありませんよ。私と一緒に来ていただければ」
それでよいのだ、細身ながら、かなりの長身の持ち主は薄い笑みを浮かべてそう言った。
「冗談」
充分怪しいじゃないよ――那智は思った。いくら人生に退屈しているからといって、こんな訳のわからない人物と一緒に行くなど、誰ができるものか。それくらいの分別は持っているつもりだ。
「どうしても、と仰るのですか」
静かな物腰の中に、絶対的な威圧感を潜ませて男は言う。
「当然」
短い言葉のやり取りの中に緊張が張り詰めた。
「ならば、力づくでも…」
穏やかな表情が硬くなる。
「やるっての?」
道端にカバンを放り投げる。運動神経には自信があった。相手は長身の男ではあったが、細身のその外見は那智に実力の差というものを見せつけなかった。
 ――……。
 来た。――那智にも動き出しは見えた。ただ、それより後は…。
 「何すんのよっ」
男に片腕一本で抱かれた状態になった那智は、じたばたと暴れて叫んだ。
「変態っ。放せー!」
「しっ、黙って」
あくまで冷静に言い放つその男は、けれど腕を解こうとはしなかった。
「何言ってんだよっ、はーなーせー」
那智がそう叫んだ時だった。
「ちっ、気づかれたか」
男が小さく舌打ちをした。
「は、何?」
「悪いが、お前の話を聞いている暇はない」
ぴしゃりと言って、男は跳んだ。その跳躍力は人並みではなかった。人一人抱えて電柱のてっぺんまで舞い上がったのだ。
「な…」
驚きで声が出せなかった。眼下には、先ほど放り投げたカバンが、寂しそうに小さくなって見える。もう初夏だというのに、冷たい風が前髪を撫でた。
「黙ってろ。舌噛むぞ」
男に片腕で抱えられた状態の那智には、男が今どのような表情をしているのか窺い知ることはできない。
――さっきまでのあの態度はどうした。何なんだ、こいつ。
急に高圧的になった男に対して、那智は的外れの不快感を抱いていた。
「来るぞ」
名も知らぬ男は、それ以上のことは言ってはくれない。
「何が…」
来るってんのよ?言葉に出し切る前に答は出た。
 どこからともなく男たちが現れ、そして、つい先ほどこの男がやって見せたように宙に飛び上がったのだ。それだけならまだしも、彼らはそのまま宙に浮かんでいる。漆黒の装束に包まれた集団は深くかぶったフードの奥から赤い眼をうつろに光らせていた。
「…何よ!これ!」
驚きと、得体の知れないものに対する恐怖とで顔が歪む。そこにあるのは、確かに那智が焦がれていた非日常であり、平凡な生活とは無縁の匂いのする世界だったが、そこに足を踏み入れて感じた最初の感情は恐怖だった。
「黙っていろと言ったはずだ」
相変わらず男の表情を知る事はできないが、なんだかとても苦々しい顔をしているのではないかと、ふと那智は思った。
「仕方がない…」
空いている片方の手で、男が何かを相手の1人に投げつけた。とたんに相手の男が霧消する。一瞬、その場の空気が凍りついたように止まった。

  那智が奇妙な音を聞いたのはその時だった。
 何かを軋ませるような――そう、最近聞いた中ではバスの中で居眠りをしていたオヤジの歯軋りのような――大きく、不快な音がした。
 音の主は、黒装束の男たちだった。顎が小刻みに揺れ、そこからぎちぎちと嫌な音が聞こえてくる。次第に大きくなってくる震えと共に、口元からは異様に尖った犬歯と、粘り気のある唾液が覘いていた。
「変化しやがった」
忌々しげに呟く男の声を頭上に聞きながら、那智はただ、その光景を見ているしかなかった。
 黒装束の一人の口から、何かが吐き出されたように見えた。瞬間、空気が歪む。それはまるで、水中に突如として現れた水泡の様であり、はじける瞬間のシャボン玉の様でもあった。それが、一直線に自分へと向かってくるのが分る。それがどのような作用を自分に及ぼすものであるのか、那智には見当もつかなかったが、決して自分にとって良いものであるとは思えなかった。けれども、眼をそらす事ができない。
「くっそっ!」
囲まれて、一斉に歪んだ空気の球を放たれて、男は吐き捨てるように呟いて、自分と、小脇に抱えている荷物――那智とを重力のなすがままに任せた。
「ぅわぁ」
急速に近づくアスファルトに、思わず眼をつぶった那智を襲ったのは、痛みでも衝撃でもなく、空間が崩壊する時のような甲高い音だった。地面に着地して、やっと男の腕から開放される。見上げると、黒装束の男たちが互いに放ち衝突させた空気の球の衝撃によって、男が消滅させた最初の1人のように、霧消していくところだった。

 「行くぞ。またすぐに新手が来る」
息つく間もなく言われた一言に、那智が反論するのを待たず、またしても男は那智を抱えて飛び上がった。
「ちょっと、誰も行くなんて言ってないでしょ?大体どこに行くっていうのよ!」
必死に手足をじたばたさせるが、その抵抗もすぐにやめた。もしここで落とされでもしたら、絶対に助からないだろうと思われるくらいには、すでに地面は遠いものとなっていたからだった。
「少しは質問に答えなさいよ。これから、どこに行くの?」
追っ手を恐れてか、徐々に速度を上げていく男に、那智は尋ねた。風を切るような速さでは、眼を開けていることもままならない。
「あちらだ。お前を待っている方がいる」
「あちらぁ?」
答えになってない――そう言おうとした、その時、周囲を真っ白な光が包んだ。あまりの速度に周りの風景が溶けてしまったのか、それとも、自分自身が溶けてしまったのか――どちらともつかなかったけれども、那智の記憶はそこで途切れた。

 目が覚めたとき、そこは気後れするくらいの純白に包まれた空間だった。

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