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飛んでる!
飛んでるよ!


俺は歓喜びに叫んだ。青い空に吸い込まれるようだ。白く涼やかな雲が流れていく。風を感じて目を細める。
両手を広げて、深呼吸しようとした時、すぐ後ろから声が聞こえた。


よく見ろよ。
飛んでるんじゃない。墜ちてるんだ。


冷やかな声だった。
相変わらず空は青く、雲は視界の隅を駆け抜けていく。自分を縛り付けて放さなかった、空へ飛び立つことを決して許そうとしなかった、重力さえ今は感じていないというのに、この声は何を言うのか。


ほら、どうする?
近付いて来るぞ・・・


示された――実際に指し示された訳じゃないが――方角へ目をやって、初めて知った。


よく見慣れた風景が、そこにあった。ただし、下から見ていた景色を上から見ている。
だんだんと大きくなるそれに、俺は声にならない悲鳴をあげた。


Fly to Sky


叩きつけられる様な衝撃を受けて、目を覚ました。自分の部屋、見慣れた風景。はっとして、自分の身体をまさぐって、何の異常もないことに安堵する。
夢か。
夢だよな、そりゃ。
空を飛ぶ夢、墜ちる夢。
「冗談じゃないよ・・・」
あと、1週間しかないのに。
額ににじんだ汗を、手でぬぐって、右を向いた。
雲ひとつない青空と、自由に舞う白い翼。俺の大好きな写真。そのすぐ横の机は、うっすらと埃がかぶっている。これを親が見たら、さぞ激怒することだろう。
ひとつ息を吐いて、ベッドから降りる。適当に顔を洗って、適当に歯を磨いて、朝靄がまだ残る外へと出た。



秋はまだ先で、もっと陽が高くなればきっと陽炎が立ち昇るようなアスファルトを走っていく。規則正しい足音が、起き掛けの夢を忘れさせてくれるのを願いながら、そんなことは決して無かった。


「よぉ、スガ。ちゃんとトレーニングやってっかぁ?」
――やってるよ。
俺は心の中で、舌打ちした。大声が頭に響く。悪い奴じゃないが、根っからの体育会系の男。正直苦手だ。
「あと1週間だからな!俺たちの未来はお前にかかっているっ!」
――こっちのセリフだよ。
――選ばれなくて、ほっとしてるんだろ。楽だよな。そうやって、大声でわめき散らすだけでいいんだから。
ナーバスになってる。自分でも解っていたけど、どうしようもない。


パイロットに選ばれた時は、嬉しかった。もう自分に翼が生えて、宙を浮いているような感じだった。
人力飛行機。
人間の力だけで、大空へと飛び出せる。唯一の手段。
ずっと、憬れてた。
故郷から遠く離れた学校を選んだのも、空を飛びたかったから。学生の本分? そんなこと、他の誰かに言ってやってくれ。俺はそんなもののためにここへ来たんじゃないんだから。
いざ、飛行機に乗るとなって、今まで以上にトレーニングを増やした。俺の体力不足で失速するようなことだけは、絶対に嫌だ。
走りこみ、筋トレ、栄養に気をつけた食事に十分な睡眠。体調がよくなってくるのが実感できたから、辛くは無かった。


辛いのは、むしろ精神的な部分だった。あんまり、こんなことは言いたくないけど。
もし、墜ちたら。
もし、機体の一部が壊れたら。
もし、
もし、
もし、
考え出したら、キリが無かった。メカニックは真剣ながらもわきあいあいと作業している。俺はそんな明るい声に背を向けて、黙々と筋トレを続けた。


テストフライトの日。
結果は散々だった。
空中崩壊していく機体の映像が、皆の目にもスローモーションで焼き付けられたに違いない。俺はなす術も無く、地面が近づいてくるのを、待つだけだった。
それから、毎晩あの夢を見る。


「スガくん、ちょっと・・・いいかな?」
宮原が近づいてきた。学部は違うけど、このチームを通して知り合った。気がつくと、こっちを見てたりする。俺がそれに気がつくと、慌てて目をそらす。言いたいことをはっきり言わない、ウザイ女。
「何?」
「あ、あのね・・・ミーティングが始まるから・・・」
「あ、そ」
大会が近い。3日後には本番に向けて、出発する。ちょっとした合宿気分で、女どもがはしゃいでいる。こいつは――宮原はそんな輪には加わらないで、自分の仕事をこなしてた。けど、それだけ。
「みんな待ってるから・・・早く――」
「わかったって」
思わず睨んだ。俺の言葉に棘があるの、わからない訳無いだろうに、本当ウザイ。ところどころ革が破れたベンチプレスに腰掛けて、目の前に立っている宮原を見上げる。どうしたらいいのか、戸惑っているようだった。


ミーティングは神妙な空気に包まれていた。1週間後に本番が近づいて、みんなテストフライトを思い出していた。出発へ向けての連絡、大会日程の詳細が事務的に告げられている。さっきまで身体を濡らしていた汗が、冷たく乾いていく。
「まぁ、ほら、あれだなぁ、ここまで来たら、やるしか無いだろ?」
ミーティングも終わりに近づいた頃、馬鹿みたいに大きな声で、口を開いた奴がいた。士気でもあげたいのか、しきりに笑って、周りに声をかけている。
「そ…そうだよな、俺たち、やるだけのことはやったもんな」
「あとは、なるようになるしかないよね!」
「おっし!出発祝いに飲みに行くか?」
「おっ、いいねぇ~」
「おい、スガ! お前も行くだろ?」
「頼んだぜ! 俺たちの希望!!」
一気に場が騒々しくなった。


「っざけんな!」
机を叩きつけて、俺は立ち上がった。自分でも驚くほど大きな音だった。掌が、じんじんと熱い。
「なんで、そんなに呑気なんだよ? こっちは遊びじゃないんだ。真剣にやる気が無いなら、出てけよ」
全員の視線が俺に集中する。ほとんどの人間が、俺が何で突然怒り出したのか、解らないといったように、きょとんとしていた。
俺だって、解らない。何でいきなり、こんな…。けど、止められない。溜まっていたモノが一気に噴火していく。
「テストであれだけ散々な状態だったんだぞ! 何で笑ってられるんだよ? てめぇら、いいよな。機体が完成したら、あとは楽しい合宿気分だ。実際に何の足場も無い世界へ放り出される人間のことなんか、知ったこっちゃないよなぁ!」
どうしようもなく理不尽な気がした。俺だけが、不安の渦に飲まれている。こいつらが馬鹿みたいに笑っている時、俺だけが笑えない。気楽な夢を見ている間、俺だけが、何度も何度も地面に叩きつけられている。


「スガ…言いすぎだぞ」
剣呑な光を湛えながら、奴が立ち上がる。トレーニングのし過ぎで、重量オーバーになった、馬鹿な奴。でもそうなって、良かったと思ってるのもこいつだ。こんな恐怖に怯えなくて済む。
「うるせぇんだよ。いちいち、いちいち、でかい声出しやがって。そんなに乗りたきゃ、てめぇが飛べよ」
――速攻、墜ちるのは目に見えてるけどな。
「スガっ、てめぇ!!」
ガタガタと椅子を後へ押し倒して、掴みかかって来た。その手を思い切り振り払ってやる。
「これ以上、お前らと一緒にいるのなんて、ゴメンだね。悪いけど、俺、抜けるわ」
言い捨てて、出て行く。背中に、痛いほどの視線を感じた。


違う。
こんな事が言いたかったんじゃない。
誰よりも、空を飛びたかったのは俺のはずなのに。
気がつけば、抑えが効かなくなっていた。
機体が納まっている倉庫の壁を、思い切り蹴飛ばした。鈍い金属音が、ひくく響いただけだった。
「くそっ…」
小さく吐き出した。
それ以上口を開けば、涙が出そうだった。


「スガくん…」
宮原だ。声でわかる。いつも遠慮がちに、相手の顔色を窺うようにそっと声をかける。蚊の鳴くような声。頼むから、放っておいてくれ。
「何?」
いつまでも消えない気配に、いらだって応えた。振り返りはしない。両手を倉庫の壁に突っ張るようにして、地面を睨みつけている。1週間後、俺はここに墜ちるのか。
「…ごめんね」
「何が?」
「私…気がついてなくて。そうだよね、スガくんはずっとトレーニングしてた。空を飛ぶために」
ああ、そうだよ。お前らと一緒にするな。他の誰のためでもない、俺が飛びたいから、ずっとトレーニングも続けてきたんだ。
「誰よりも、飛びたいと思ってたの、スガくんだよね。でも、私たちだって、呑気に遊んでた訳じゃないよ?」
責める口調じゃないのに、ムカついた。そんなの、当たり前のことじゃないか。何だっていうんだ、私たちだって、辛いのよ、一緒に頑張ろうよ、か?
「あの後ね、少し機体の調整したんだ。北村君がこのままじゃダメだって。スガが頑張ってるんだから、俺たちもできるだけのことはやろうって」
宮原の言葉に、メガネのクラスメートの顔が浮かぶ。設計責任者の北村は、教授陣のウケもいい優等生。その程度の認識しかない。
「俺たちが、お前を飛ばせてやる」
後から、もう一つの声。ああ、なんか、ドラマみたいじゃん。なんだよ、この展開。
「悪かった。確かに、ちょっと騒ぎすぎたかも知れない。ただ、解って欲しいんだ。誰一人、呑気に構えてる奴なんて、いない。アイツもアイツなりに、みんなを元気づけようとしたんだろ。お前の恐怖は、多分アイツが一番わかってる。同じパイロットを目指した人間だからこそ、きっと解ってる」
静かな口調だった。そういえば、こいつはいつもこんな感じだ。テストフライトの時も、自分の設計した機体がばらばらに崩れていくのに、その表情は崩れなかった。
「テストのショックはお前だけの物じゃない。俺を含めた全員が感じてる。だから、同じ轍は踏まない。次は飛べる。お前が、飛ばす」
その自信はどこからくるんだか。黒縁のメガネをかけて、腕を組んで立ってるんだ。そうやって、俺を見てる。テストフライトの時のように。
「大丈夫なんだろうな?」
振り返って訊ねてみた。自信に満ちた不敵な笑みが浮かんでいた。初めて見た笑顔がコレかよ。
「言ったろ? 俺が――俺たちがお前を飛ばせてやるって。だから、お前も飛べ」
「めちゃくちゃ言ってんじゃねぇよ」
俺がどれだけ悪夢にうなされてるのか、わかってんのか?
怒りや不安はまだ収まってはいなかったけれど、こいつらが造った機体を試してみてもいいような気がしていた。


今から思うと、ものすごい八つ当たりだったと思う。あれから数日はやっぱりみんなとの関係もぎこちなくて、北村もいつもと同じ無表情を貫いていた。宮原だけが間にたって、おろおろと行ったり来たりを繰り返している。
目の前に広がる湖。墜ちても死ぬ事は無い。大会主催者側の当然の配慮か。
「こんな事言ったら、またお前は怒るかもしれないけど――」
互いに襟首をつかみ合って、殴り合いになろうかというところまでいった相手に、前のように話しかけるのは難しい。遠慮がちに言い出した相手に、俺は視線を顔ごと向けた。
「あとはお前に任せるから。飛べるだけ、飛んできてくれ」
――わかってるよ。
「それより、ナビ、頼む」
ぶっきらぼうにそれだけを言う。思いは伝わっただろうか。



小さなコクピット。
こいつに俺の命を預ける。
いや、チームみんなの想いが乗ってるんだろう。
さぁ、行くか。
窓越しに、北村の顔が見えた。一瞬だけ、あの夜見た、笑顔を浮かべていたように見えた。
自信有り、か。
なら、俺が飛ばせてやるよ。
この大空をな。



カウントダウンの声が聞こえる。
さぁ、飛べ!

今、あの夢は、俺の望むとおりに形を変える。

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