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あと、どのくらいすれば、
傷つけてしまった彼女を決して、拭い去ることのできない傷を、
癒すコトができるのか。
おれ自身にそれくらいの心の余裕が生まれるのだろうか。
その資格が、
そもそも俺にはあるのだろうか。
ある種の『人殺し』を彼女にさせてしまった俺に。
彼女に『癒し』になれる力が、権利があるのだろうか。
二人のはじまり another story Compensation 5**
『あの日』から、4週間が経って、年始の忙しさからようやく解放され始めた。
昨年と同じように皆が仕事をする中で、
俺だけが少し違っていた。
ウエの人間がいつもと少し違う様子にさすがに気づき始めている。
この先色々控えていることがあるのに、時たま眉を顰めて表情を窺ってくる。
煙草を咥えたまま、特に何をするでもなく、目の前に積まれている書類に形式的に目を通す。
それは傍から見れば卒なく仕事を片付けているようにも見えるのかもしれない。
本当は、周りの喧騒から逃げたかった。
耳を塞ぎたくなる。
賑やかな雰囲気が今の自分にはあまりに居心地が悪い。
どこか集中できない、空虚な世界が眼下に広がっているだけ。
昔からそう。
周りから逃げたいときは違う方向に興味のある風な態度をとり続けていた。
それが、仕事であったり、オンナだったりその時によって異なってはいたけど、
本当は弱いはずなのに虚勢を張るコトばかり覚えた。
逃げるコトは、闘うコトよりも明らかに簡単で、楽だから。
今回もそれに似ていた。
正義、正義と謳ってばかりで、
その中心にいるはずなのに、
たった一人の命さえ守ることができなかった。
・・・一つだけじゃない。
彼女の心までをももぎ取ってしまった。
愛する相手を思いやれなかった馬鹿な自分の所為で。
結局は、世間体を取り繕ってばかりいる身勝手な自分の所為で。
昔と同じようにあの時と同じように、また、
モノクロで単調な世界にまた戻るのだろうか。
自堕落で、その先のコトも考えずに
その瞬間の快楽にだけ酔うのだけの生活に。
ただ、美弥と会う前の自分に戻るだけで、
たった8ヶ月前の自分に戻るだけだ。
簡単なコトじゃないか。
なんてコトはないはずだ。
怖いならまた逃げればいい。
嫌ならまた取り替えればいい。
自分が辛くなるくらいなら、スペアはいくらでもある。
それがついこの間まで平気でやってのけていた自分だ。
けど、それができないくらいに自分の中で美弥の存在が大きくなり始めているのも知っている。
自分より10も下の『ガキ』に甘えていた。
離れるのが一番怖いのは本当は俺なのに。
なら、どうして・・・
場所さえ違えば泣きそうになった。
相当頭はイカレ始めていた。
携帯のディスプレイを開くと、
『新着メール有』
『着信有』
『留守番電話 1件』
開かなくても誰からかわかる自分がいる。
その確証の半分はそうであって欲しいという願い。
あの日から、美弥の姿はおろか声さえも聞いていない。
会ってはいた。
彼女は変わらず俺と接そうとして、笑っていた。
それでも、いくらそばにいても声が頭に入らなかった。
不安だから、
また泣かせてしまうのではないかと。
また傷つけてしまうのではないかと。
本当は、
逢いたくて仕方ないのに、
会うのが恐いから。
下唇を緩く噛んで、感情の表出を避ける。
ココでは、感情を顕わにする自分は存在しないから。
常にポーカーフェイスで、
相手の感情を逆撫でするくらいが、普段はちょうどいいから。
そうイメージを持たれるコトを望んでいたし、
それしか、今の自分には赦されていない。
その感情を自分自身で殺している。
今、美弥に会ったら、
絶やさないあの笑顔に暖かい雰囲気にまた、甘えてしまうから。
美弥に会ってあの瞳と真正面から向かって、何を言えばいい。
どんな言葉をかけたらイイのだろうか。
今更、俺に何ができると言うのか。
いつもそれが邪魔をして、美弥といてもどこか遠くに気持ちを投げたままだった。
直視できない部分があまりに大きかった。
背中の後ろあたりに黒いしみができ始めて、
怖かった。
あまりにも簡単に彼女を傷つけてしまうのではないかと。
煙草の灰が静かに灰皿に落ちる。
「・・・・・・」
拒絶されるかもしれない。
怒らせるかもしれない。
・・・まだ、泣いているのかもしれない。
もう、傷ついてもいい。
それでもいい。
携帯を持つ手が珍しく震えた。
携帯のメモリから、美弥の名前を探すコトに指が随分と慣れていた。
通話ボタンを押して、耳元に携帯を当てる。
呼び出し音からまもなく、
「・・・藤田さん?」
潜めるように小さな声が聞こえた。
「どしたの?」
相変わらずその声は優しかった。
けど、少し緊張を帯びた声だった。
「・・・今日、会えるか?」
煙草の煙を吐き出して問う。
「うん、大丈夫だよ」
泣かせるくらいなら、俺はどうしたらイイのだろうか。
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