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痛みで目が覚めた。









本当はそれほど痛くもない痛みだけど、












心にできた傷は少しずつ広がりを見せる。























  二人のはじまり another story        Compensation 2**






























薄暗い小さな病室にはあたし以外の誰もいない。










ベッドの淵すれすれに引かれたカーテン。






時折聞こえる足音。












「・・・終わっちゃったんだ」





最後に時計を見てから1時間半が経っていた。
















手術は、本来なら赤ちゃんが産まれるはずの場所で行われた。






残酷にも覚えるような『処置』













病院特有の前開きの手術着に着替えて、












気持ち的には死刑台に上る死刑囚みたいに、絶望感が身体中を支配していた。


















「これから麻酔が効くから、ゆっくり1から数えて…」











その言葉は、ある意味のカウントダウンってこと、わかっていた。







だから、涙が溢れてどうしようもなかった。











わかってた瞬間なのに涙は拭っても拭っても止まらない。















「泣かないで、麻酔効かなくなるから」







心底心配してくれているであろう看護婦さんの声も、








そのときだけは、耳を塞ぎたくなった。















あたしは酷いコトをするんだ。






今、ココでなら、まだ引き返せるかもしれないのに、













あたしにはそうする勇気さえなかった。












涙が少しおさまったところで、意識が薄れてきた。









「…いち、」














ごめんなさいって言葉は不適当かもしれない。







そんな上滑りする言葉を口にするくらいなら、
















どうして、こんな結果を望んだんだろ。






誰が、こうなることを望んだの?













あたし?





















「…に、ぃ」







償っても償い切れない。
















一生背負わなければいけない代償はあまりに重過ぎる。






















「…さ…ぁ」









あたしはそのまま意識をなくした。












この僅かな時間で








あの子が生きた8週間がすべて失くなっちゃったんだ。

































つぶやいても答えてくれる人は誰もいない。







泣いても誰に見られるコトも聞かれるコトもないのに声もあげられなかった。







涙だけがボロボロ零れた。
























痛かった、よね…








恐かったよね、苦しかったよね。












あんなに生きようとしてたの知ってるから、
















あの子から比べたらあたしはすごくちっぽけな存在だ。






皆を困らせて、悩ませてばかりで。





何一つ喜ばせてあげられない。























ひとしきり泣いて、ベッドを出る。






どうしても動きたいわけじゃなかったけど、









何かしたいと思った。











優しくて、でも無感情のピンクの天井を眺めるのは辛かった。













麻酔が醒めきらない身体で壁伝いにトイレに入って、座って。










「・・・・・・」






下着のナプキンに付いた『処置』の終えた血が、手術がホントに終わっちゃったコトを、










あたしにもうあの子がいないコトを伝える。














たった8週間といえばそうなのかもしれない。





実際、あたしがあの子の存在をわかっていたのは1週間にも満たない。















けど、あたしは、あなたを愛してました。





















信じてくれますか?


































トイレを出ても、なんだかまっすぐベッドに戻る気になれなかった。








隔離されるようにあったあたしの場所にも












時折、小さくしか聞こえなかったけど、はっきりわかる大きな喜びの声。










光の部分。









行ったら辛くなるはずなのに、少しでいいから光を感じたかった。













ガラス越しには、産まれたばかりの小さな命達が、






ふわふわのお包みに大事そうに守られて、









小さなベッドの中で小さな寝息をたてていた。
















本当に小さくて、少しでも強く抱きしめたら、壊れてしまいそうな輝きの原石。















でも、あたしには抱きしめる権利なんてない。




















「かわいい…」





口から出るのはこれ以上に表現できない褒め言葉なのに、













本当なら、あと半年ちょっとも経てば、あの子もこの光の中にいたのに。












あたし自身の顔はどんどん歪んでるのがわかる。



あたしの涙腺はずいぶんともろくなっちゃった。















こんな舞い降りた宝物を、




あたしのところに








産んであげられなかった。















いっぱいいるカップルのなかからあたしたちを選んで、








命として生まれて育っていたのに、







この手で抱きしめてあげることも、



愛する人に抱かせてあげることも出来なかった。






パパやママが守ってくれたみたいに、






あたしが守らなきゃいけなかった他の何にも変えられない命を、












理不尽なあたしのわがままな理由で、



















・・・殺しちゃったんだ。

















目の前のガラスが丸く曇る。











「あなたの赤ちゃんはどの子?」







柔らかな笑みを浮かべた幸せな雰囲気の中にいる女の人。





光の中にいる人だ。









「あ・・・・の」









あたしは、













あなたと違いすぎる。












あたしは・・・・・・・、















「ちが・・うんです・・・・・」
















何もかも、目の前にまで見えた幸せを壊したんだから。



















「ご、めんな・・・さい」


















言葉を言い終わるよりも先に、ずるずると身体が崩れ落ちて、






うずくまったまま、声をあげて泣いてしまった。











どうして、





どうして、












あたしはココにいるんだろう。










それさえもわからないくらいに、















心の中を罪の意識が染めていく。











本当は、誰よりもあの子に逢いたかったのに。
























看護婦さんが駆け寄って来て、あたしは病室に戻されて、








それから気持ちの落ちつく薬というものを点滴されて、また眠りに落ちた。
















あなたがどれだけ儚いかわかっていた。











ホントは、「妊娠」を知った瞬間、すごく嬉しかった。






小さく動く心臓にはホントに感動して、

















一番に浮かんだのは、


















藤田さんの顔だった。



















なのに、それ以上に恐かった。





ママになるコトも、




あの子の存在さえも。













藤田さんと一緒になるコトも。










結局、何もかにもが怖くて、目の前で怖気づいてしまった。




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