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「結婚しよう」
藤田さんの部屋に入って間もなく、いつもみたいに二人並んでソファに座った直後だった。
いつも顔に感情を出さない藤田さんが教会からずっと少し紅い顔のままで、そう言ったのは。
二人のはじまり 。。。13。。。 二人のはじまり
暖房でまだ温まっていない少し肌寒い部屋で
それなのにあたしの身体は、熱い。
間近で囁かれた小さな声が何度も頭の中に響く。
「ふ、藤田さん?」
イマイチ、言葉が上手く理解できない。
今、
『結婚』て言った?
「藤田さん、誰に言ってるかわかる?」
気が動転しているのもあったけど、
あたしは、
「野坂美弥」
あの人じゃない。
藤田さんのココロにひっかかっている人じゃないよ。
付き合う前、あたしがアプローチしまくっていた頃言っていた
そして、あの時藤田さんが言っていた
『昔、今迄で一番惚れたヤツがいて、
今迄で一番傷つけたヤツがいる』
あの人じゃないよ?
今、目の前にいるのは
藤田さんに迷惑ばかり、困らせてばかりのあたしだって分かってる?
心臓がいつもよりうるさくドキドキしていて、
けど、
あたしの心には藤田さんが思っている見たことのない彼女の存在があるの。
「・・・あたしは」
藤田さんにとってどういう存在?
そして、その大切だったその人はどういう存在?
そう聞こうとしたあたしのことを何も言わせないかのように、
すっぽりと抱きしめられる。
「美弥は俺の中で他の誰かができるような存在じゃない」
温かさと一緒に伝わるのは藤田さんのいつになく速い鼓動で、
「あいつのことは確かに大事だ、今も。
けど、それ以上に美弥のことが、美弥っていう存在が俺の中で大きいんだよ」
わかってくれよ、小さな声が聞こえた気がした。
「あ・・・あたしなんかでいいの?」
「『あたしなんか』じゃなくて、その『あたし』じゃなきゃ駄目なんだよ」
あたしが、
「藤田さんのお嫁さんになっていいの?」
「俺はそうして頂けると嬉しいんだが」
素直に喜んでいいんだよね。
あたしは、このまま貴方と歩んで行こうとしていいんだよね。
いつの間にか流れていた涙を藤田さんが指で拭いながら、
「幸せにするなんていわない・・・・
二人でここから歩んで、幸せになろう」
背中に回されていた手は一層きつくなって、
頬に、柔らかい茶色い髪が触れる。
・・・・・・・・
外は晴れていた。
柔らかい朝の太陽の光がカーテンから零れ落ちて部屋の中を明るく照らしている。
「美弥・・・」
あたしを呼ぶ声が聞こえて、あたしは徐々に夢の世界から現実の世界に引き戻される。
一回軽く寝返りを打って、
「藤田さん、おはよ」
正直、まだ眠いからあくびをして、頭を動かして、
目をこする。
目の前の顔はいつもとなんら表情が変わらなくって、
「あたし、夢だったのかな」
そんな気持ちにさえなってしまうよ。
「じゃあ、コレはどう説明する?」
そう言われて握られたあたしの左手の、
薬指には、
小さいけれど他のどんなものよりも、
今、あたし達を照らしてくれている太陽よりも
まばゆく光るダイヤモンドの載った
シルバーのエンゲージリング。
「コレで夢だったなんて言われたら、立場ねぇ」
昨日の延長みたいに藤田さんがまた少し紅くなって、頭まで布団をかぶる。
やばっ。
可愛いんですけど・・・。
そんなことされると余計にからかいたくなって、
「じゃあ、もう一回言って?」
布団をめくって、藤田さんのことを見る。
近くで見た藤田さんの顔は相変わらずキレイで、
そのキレイな表情が少しだけ紅くなりながら、
「結婚しよう」
耳元でそう呟いた。
----------------------------fin.
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