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「あたし、・・・産めない・・・」
二人のはじまり 。。。11+。。。 音のない世界
しんと静かな美弥の家のリビングで美弥の小さな口から漏れた声。
震える手で差し出された少しシワの出来た紙切れ。
「赤ちゃん堕ろすには、相手と・・・あたしは未成年だから、親の同意が必要だって」
産んでほしいって思っていたけど、
そんな表情みたら言えない。
後になって感じるのは自分に対する憤りだけで、
差し出された紙に黙ってサインする。
毎日、色々な紙に名前書いたりしてきたけど
こんなに緊張したのは初めてだった。
「じゃあね」
玄関まで美弥に見送られる。
でも、美弥は何かが抜けてしまったみたいに、
瞳に光がなくて、
「ごめん」
この言葉が今、適当なのかわからないけど、今はこの言葉しかかける言葉が思いつかない。
気づけば、自然と足が家とは反対方向に向いていた。
「どうしたの?」
迎えてくれたのはアヤカだった。
相変わらず変わらない表情。
素足にサンダル履き、甘い香水の香り。
「あがる?」
くぃっと親指で部屋を指す。
「いや、此処でいい」
「珍しいわね。で?」
珍しい・・・・か。
こいつにしたらそうかもしれないな。
俺がこいつの家にいつも来ていた理由は一つしかなかったしな・・・
「・・・もう、ここには来ない」
「別れを言いに?」
まぁ、
「そんなとこだ」
「可愛い彼女がそんなにいいんだ?」
アヤカがサンダルの足で少し背伸びして、首に腕を絡ませる。
「今の俺にはあいつが必要なんだ」
やっと気付いたんだ。
あいつの表情みて、
純粋に
守りたいって思った。
それが同情とかじゃなくて
今まで感じてきた感情のどれとも違っていて、
上手く言えないけど
『愛してる』からだってようやく気付いた。
今まで、ずっと世間体ばかり気にしてた。
美弥はまだ高校生だから、
俺は一応、警官だからって。
正直、あいつの素直すぎる瞳をみることを避けてばかりいた。
あいつのこと考えようとしていて考えてあげられていなかった。
「まぁいいわ」
首からアヤカの腕が解かれて、
「そういうわけだ」
足を一歩後ろに引く。
「待って」
足がとまる。
「ん?」
「最後にひとつだけ・・・お願い」
「何だよ」
「今まで、何回もあなたと一緒にいたけど、一回もあなたからキスしてくれなかった。だから」
解かれていたはずの腕がもう一度絡まる。
「だから、一度だけでいいから、あなたからキスしてくれない?
慰謝料がわりに」
笑った顔は少し寂しそうで
軽く、触れるか触れないかのギリギリに唇を重ねる。
「ありがと・・・・・」
「いや」
「本当にサヨナラ」
パタンッ。
ドアが閉まる。
それから数日して、
美弥は子供を堕ろした。
あいつを救ってやりたい。
今、感じているのは
ただそれだけだ。
あの夜。
抜け殻みたいになってしまったあいつに、
もう一度、
音のある世界を見せてやりたいんだ。
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