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「怒ってるでしょ?」
昨日の夜、痛くなるくらい背中にしがみつきながら、何度も呟いていた美弥。
背中にあたる息が熱かった。
「別に、怒ってねぇよ」
俺は、美弥に背を向けたまま何度となくこの言葉を繰り返していた。
たかが、自分のオンナがオトコといるのを見たぐらいで怒っていたらラチあかねえし、
あんなこと、別に気になってねぇし、
気になったのはあのオトコのどこか自信のありそうな瞳だけで。
「本当?」
「ホント」
俺の腹のとこで組まれてる腕をぽんぽんと叩く。
ここでしっかり美弥の顔を見て、その口さえ塞いでしまったら良かったのかもしれないのだけれど。
今はそれだけで終わる自信なんてまったくねぇし、
・・・何にかなんてわからねぇけど
俺は、
焦っていたのかもしれない。
二人のはじまり 。。。4。。。 不 調 和 音
背中の辺りが寒くて目が覚めた。
もう美弥はいなくて、
テーブルに「ごめんなさい」とだけ小さな字で書かれた
メモが残っているだけ。
「別に怒っちゃいないんだけどな」
・・・うまく表すことのできない感情。
昨日の夜、美弥がオトコと公園ではしゃいでいるのを見たとき
当たり前すぎて、
どこにでもいる普通の高校生の姿すぎて、
暫く近寄ることができなかった。
いや、何度も考えたことがある。
美弥には美弥の年相応の好きだの愛だのを考えることができれば、
美弥にとって一番、幸せなことなんじゃないかって。
それが、あまりに早く現実の中で、目の前でリアルに見せられたから、
少し、面食らった、ただそれだけのことなんだ。
―ダカラ、セメテコノ瞬間ハ忘テイタカッタ。
「あ・・・れ? もしかして、藤田?」
仕事帰りにたまたま寄った通りすがりのショットバー。
カランっと音を鳴らして入ってきたオンナには見覚えがあった。
俺の知ってるときと雰囲気は少し違うけど、
きつそうに見える容姿と
特徴のある少し大きな前歯は変わらなくて、
「・・・アヤカ、か?」
「隣いい?」
アヤカ・・・木村彩夏が、隣の椅子に腰掛けて、昔と同じようにミモザを頼む。
淡いオレンジの甘いカクテル。
「今、何してるの?」
アヤカが、手をつけていないグラスの氷で遊ぶようにカランと音を鳴らせながらグラスを回す。
「何って・・・」
「仕事、まだ続けてるわけ?」
あぁ、そのことか。
「続いてるよ」
まぁ、なんとか。
「もう一つのほうは?」
あぁ、あれか。
もう一つっていうのは、俺の女癖のことで
「あれは、もう飽きた」
そもそも、好きで手ぇ出したわけでもねえし。
「へぇ」
アヤカは面白そうに笑う。
「お前こそどうなんだ。男癖」
タバコに火をつける。
「あたしだって、いい年よ。もうやめたわ」
アヤカがタバコをケースから一本抜き出して、
真っ赤な唇で咥える。
「それに」
顔が近づいてくる。
タバコの先同士を近づけるように咥えなおして、
息を吸い込む。
もらい火をしたタバコを唇からはずして、
「あなたほどのオトコはいなかったから」
「言ってくれるね」
たまたま会っただけで、愛情のないまま、とりあえず抱いてたような馬鹿な時代はもういい。
「今、彼女はいるの?」
「・・・いるよ」
言葉の前の不自然な間に気づかないわけがなくて、
「その調子じゃ、うまくいってないみたいに聞こえる」
「そうかもな」
「別れるつもりなの?」
別れ。
その言葉をはじめて意識した。
「それとも、一時、忘れたいの?」
忘れたいのは、
昨日、一緒にいたオトコの自信のありそうな瞳なのか、
それとも、
あいつと一緒にいるときの美弥の楽しそうにしていた笑顔なのか
わからない。
けど
暫く、何も考える気力もねぇ。
フッと、眩暈を感じた。
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