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 「万屋」とはいえ、日々の暮らしはあまり楽ではない。月の家賃と、生活費、その他諸々の出費をわずかな収入源である依頼料で賄おうとすると、たいていは赤字になる。
 成功報酬、必要経費を合算して請求するべきだ、と、タキは何度も後払い制をコウに要求しているが、受け入れられたためしがない。と言うのも、今すぐに金が手に入らないと二人とも路頭に迷う、そんな逼迫した状況が何故か日常と化しているからだ。
もらえるモノはもらえる時に――長年付き合ってきてタキが悟った、コウの座右の銘である。
 そんな二人の命綱がタキが開発する魔法具の数々だ。繊細な仕事はタキ一人の手によるもので、個人向けの販売のみだが、それなりの需要があり、定期的な収入になる。魔法具なしでは魔法を使えない一般人にとって、必ずしも良心的とはいえない価格ながらも、タキの造る魔法具は一品で、注文は後を絶たない。そして、本業の万屋を営む時にも魔法具は必需品となる。ところが、「ただ」で使って、高額の損害を被るのも、仕事で使うときの魔法具だったりするのだ。もちろん、壊すのは相棒の闇赤色の髪の持ち主である。
 家計の赤字が解消されないのは、収入の少なさ、というより余計な出費の多さにある――すでに慢性的になりつつある金欠の原因を一人分析して、だからといってどうにかしようとする訳でもなく、タキはため息をついた。
 前回の依頼で、コウは魔法馬車を一台駄目にした。馬車といっても、馬は付いておらず、車輪を直接――といっても媒介は必要であるが――魔法で回転させて進む。
 車輪を回転させるための媒介となるトチクチの実の油は、ある程度の距離を走ると、消耗してしまい、新たなトチクチ油の補給が必要となる。静音、無臭、燃費の良さを売りにする、特上のトチクチ一番搾り油を使って、給油回数を減らしたにも関わらず、自分の無尽蔵の魔力をいいことに、トチクチ油の注ぎ足しを忘れ、動力機関を焼付けさせたのだ、あの馬鹿は。
 大型の希少な魔法具だっただけに、損害は大きい。


 「あぁ、アレか?」
胸に手を当てて、瞑想していたコウは、思い出したようにポン、と手を打った。
「アレか? って疑問系なのがむしろ気になるのは俺だけか?」
タキが、言葉の微妙なイントネーションに片眉を上げてみせれば、心当たりがあまりにもありすぎる、とコウは笑った。
 「まったく、あれだけしつこく給油を忘れるな、って言ったのに結局エンジン丸ごと交換になったんだぞ。ローンだってあと7回残ってるし」
だから贅沢できる余裕はない――。タキの言葉を否定する理由もないので、結局街へは「蹴乗(ケノリ)」をモウリアから借りて行くことにした。縦長の板に車輪がついていて、板から伸びた取っ手を掴みながら地面を蹴って進む。簡素な乗り物だが、魔法を必要とせず、体力だけで動くので、子どもや庶民の間で普及している。
 ただし、それは平地での話だ。シェナのように丘の頂上を中心として麓へと広がっている坂の街では、操作が却って難しい。とりあえず持ってはいるが、かといって乗るわけではない。それがシェナの人々の実際らしかった。


 石畳の道をカタカタと音を立てながら二台の蹴乗が行く。広場から延びている大通りには、「何か」が通った跡が深い溝となって残っている。道沿いに続く様々な店は、それなりの賑わいを見せていたが、誰もが石畳を深々と抉ったその溝を、あえて見ないようにしていることは、彼らの視線から明らかだった。
 「とりあえず、この痕を辿って行くしかないと思うんだけどな……」
入り組んだ路地に網目のように這わされた溝痕は、ぐるぐると迷宮へと二人を誘っているようにも見える。
「この街に入った時に見た、あの外壁の窪みをもう一度きちんと見てみよう。あれが終着だとすれば、逆に辿ることで巣に辿り着けるかもしれない」
「うへぇ、じゃぁ延々上り坂じゃねぇか」
うんざり、といった体でコウが言えば、タキが呆れたように横目で睨む。
「仕方がないだろう、シェナの街自体、丘の広場を中心として麓へ放射状に発展してきた街なんだ。魔法具が使えないんだから体力で――」
「それだ!」
コウは、名案をひらめいたらしく、指をパチンと鳴らして蹴乗から足をおろした。
「タキ、俺、いーコト思いついちゃった」
「……その、むふふふっていう気持ち悪い笑いを止めるんだったら、聞いてやらないこともないが?」
タキが、地面に片足をつけて立ち止まると、コウはしゃがみこんで蹴乗の車輪の部分に触れ、タキを見上げた。
「まぁ見てろって」
言いながら、ぶつぶつと何かを呟く。やがて、蹴乗の車輪から、シュルシュルという回転音が聞こえ始めた。
 緩やかだった音はだんだんとその速度を増し、キュルキュルと鳴り始めた頃、コウは自分の蹴乗にも同じように「仕掛け」を施し、立ち上がった。
「これ、俺の魔法で勝手に車輪が回るようにしてみた。これで一々地面を蹴らなくてもいいし、坂道もラクラク、自由自在! ただし、止まる時は自分が蹴乗から飛び降りること。車輪はずっと回転し続けるから、持ち手は放すなよ」
「どうせなら、その辺の操作性も考慮に入れることは?」
――自由自在には……程遠いんじゃないか?
コウが蹴乗に施したのがなんだったのか、容易に見当がついたタキは、ひとりでに高速回転する車輪を見下ろしながら言った。この速度で走る蹴乗から上手く降りたり、板に棒を取り付けただけのような粗末な取っ手だけで蹴乗を操縦するのは、骨が折れそうだった。


 「俺が、そんな複雑なもの、イメージできる訳ないじゃん?」
自慢になりもしないことを、コウは堂々と言い放つ。
 コウは大陸でも珍しい「魔法士」と呼ばれる類の人間である。だが、その事実を知る者は少ない。コウ自身、タキと出会うまで、己のような存在を「魔法士」と呼ぶのだとは知らなかったほどだ。
 全ての人間がその身に魔法を宿しているこの世界で、魔法を実際に使っている人間は、実はごく少数である。
 この世界で、魔法を操れるのは、「魔法使い」、「魔術士」そして「魔法官」であると人々は教わる。世界が生まれた太古の時代、神によって与えられた「魔法」という能力。人間ならば誰もが持つこの能力だが、使いこなす力は人によって様々であった。
 魔法具を使い、体内魔法を利用するのが魔法使い。魔法具があれば、たいていの人間がなれるものだ。タキの魔法具を買い求めるお客は、皆この魔法使いと呼ばれる人々である。
 一方、魔法具を利用しないで魔法を使えるのが魔術士と呼ばれる人々である。彼らは体内魔法を力として顕在化させるために、魔法具の代わりに、呪文を用いる。簡易呪文から超難易のものまでその数は無数にあると言われており、その特殊能力は王宮でも珍重されるという。
 さらに、王宮に仕える魔術士の中には、魔法の発動に呪文すら必要がない者達が僅かに存在する。彼らは魔法官と呼ばれ、王宮の深く、王族の傍近くに仕え、めったに公の場には姿を現さない。神の恩恵を受けたものとして、羨望の念を込めて呼び習わされる名だけが、その存在を証明しているようなものだった。
 そして、そんな魔法を扱う人間たちの間でも伝説のように囁かれる存在がある。自らの特殊能力を生かして、「官」となる訳でもなく、野にあってその存在を主張しない者達――それが魔法士と呼ばれる者達である。
 彼らにとって、呪文すら用いずに魔法を発動させるには、己の意識――イメージの構築が不可欠だ。自身が望む、明確な像を結ぶことが出来る者ほど強い魔法が使える。そのイメージをより強固なものにするために、彼らはしばしば言葉を発する。先程コウが車輪に向かって呟いていたのはそのためであったのだ。
 蹴乗のような単純な乗り物の操作性すら「複雑」の一言で片付けてしまう相棒が、世界でも数えるほどしかいないと言われる魔法士であるというのが、未だに信じがたいタキである。ただ、彼の無尽蔵の魔法とその力は今までに何度も目にしていて、実力を疑ったことはなかった。
 普段はいい加減で、だらしなくて、怠惰な奴だが、信頼は出来る――本人が聞けば大喜びしそうで癪なので、直接言ったことはないが、タキのコウに対する評価は決して低くはない。


 風を切って、シェナの街を蹴乗が進む。
 坂の街で実際に蹴乗を使う人自体が珍しいというのに、まして地を蹴らずに進む蹴乗に、人々は驚いた。
 街中の視線を感じながら街の外郭である外壁に着くと、先日と変わらぬ痛々しい窪みがくっきりと残されていた。
「やっぱり結構でかいよなぁ」
自分の両手を尺度としても、人の身長ほどもある直径の円に、感嘆とも取れるため息を吐いて、コウは相棒の少年を振り返った。外壁の窪みから延々と延びる、「何か」が通った痕。その傍らにタキはうずくまり、熱心になにやら観察している。
「何見てんだ?」
「あぁ、コウ。これ、何だと思う?」
示されて、タキの手元を覗き込むと、そこには行きがけに見かけた土の塊があった。
「あ、これ。街に入る時にも見かけた、土の塊じゃないか? 路地のあちこちで見かけたよな、そういえば」
「そうだ。なぁ、よく見てみろ……これ」
「ん? ……ニンジン、に見える、かも?」
土の塊と思われるものの中から、ちらちらとオレンジ色の欠片がのぞいている。他にもレタスのような緑の植物の一部やら、なにやら、見覚えのあるような、ないような、そんな色彩が見え隠れしていた。
「恐怖――シェナの街に怪物現る……」
「野菜を持って逃走!!!」
はっと顔を上げたタキと、見下ろしていたコウの視線がぶつかった。行きがけに眺めていた新聞の見出しには確かにそう出ていた。
 ――破壊された商店からは商品である野菜が根こそぎ盗まれています――モウリアの話を思い出した。
「タキ、じゃぁこれって……」
「多分、俺の考えが正しければ、こいつは奴の『糞』だ」
「うげぇ、ばっちぃー」
言葉の割りに楽しそうな表情のコウを無視して、タキは夕暮れが近づきつつあるシェナの街を見上げながら、一人思案していた。
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