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 この枷をはずして、自由を与えてくれた。
 これからもずっと、一緒にいるものだと思っていた。







 「クビ、ということですか」
ナスターシャは身じろぎ一つせず、それだけを尋ねた。
「…せめて左遷と言ってもらいたいものだが――下世話な言い方をすればそういうことだ」
自分のしたことに、心当たりがないわけではあるまい――目の前で軽く手を組み合わせながら、深々と腰掛けて上目遣いで見上げてくる壮年の男の視線を、ナスターシャは淡々と受け止める。
 背中まで届く深い翠の髪は、何の飾り気もない軍服を着た彼女を彩る唯一の色彩だった。眼鏡の奥の瞳がますます冷たい光を帯びていく。
 ネオロシア軍本部の一室。相変わらず暗く冷たいその部屋で、彼女は上官と対峙していた。




 ガンダムファイト。コロニー国家間の戦争を避けるために考案された、その新しい形の戦争は、地球という名のリングで繰り広げられた。4年に一度のガンダムファイトで優勝した国がその後4年間の全宇宙の覇権を握る。そのガンダムファイト第13回大会が終了してから、3ヶ月が経とうとしていた。
 優勝したのはネオジャパン。しかしながら、優勝の余韻も覚めやらぬうちに、ネオジャパン自ら宇宙に混乱をもたらした。デビルガンダムという混乱を。
 結局、それはネオジャパンのファイターをはじめとする、シャッフル同盟の面々とガンダム連合の力によって一応の解決を見る。コロニー各国からはネオジャパンへの非難が噴出したが、ネオジャパンファイターの活躍と、シャッフル同盟、ガンダム連合の請願により、ネオジャパンに対してこれといった処罰は下されなかった。
 ナスターシャもネオロシアのガンダムファイトチームの監督として、1年に及ぶガンダムファイトを戦い抜いた。



 「君のやったことは立派な軍規違反だ。この程度の処罰ですんで、良かったのだと思いたまえ」
どこまでも偉そうに上官は言った。激しい戦いの中、今と同じように座っていたのであろう上官に苦いものを感じながら、ナスターシャは黙っている。
 デビルガンダムとの戦いの時、ナスターシャは軍の了解を得ず囚人を釈放し、参戦した。そのことを今でも後悔してはいないが、それが規則に違反することも、自分にどれほどの処分が待っているのかも知らないわけではなかった。だから、驚きはしない。
 唯一つ、一つだけ聞きたいことがあった。



 「アルゴ・ガルスキーはどうなりますか」
極力感情を抑えた声音で尋ねる。
アルゴ・ガルスキー。
ネオロシアのガンダムファイター。そしてシャッフル同盟のブラック・ジョーカー。
最強の宇宙海賊と呼ばれた男は、囚人となり国家のために戦わされた。己自身と仲間の釈放を条件に。ファイトでは優勝できなかったものの、彼のネオロシアへの貢献は計り知れないものがあった。
そのことは軍上層部も充分承知していたのだろう、ナスターシャの問いに、かつてないほど柔軟な答が返ってきた。
「奴は見事にガンダムファイトを戦い抜いた。ネオジャパンの不始末も片付けてやった。約束は守らなければなるまい」
世間体を気にしての結論だったのか、不本意であるという表情を隠そうともせずに告げる。
「結果的に奴らは釈放されることになったが、君のしたことは軍規に違反している」
同じことを再び繰り返す。そのことはもう充分理解しているつもりだった。何度も繰り返し聞かされるような話ではない。ナスターシャは一年を共に過ごした男との約束を違えることがなかったことだけを心の中で安堵していた。




 くだらない上官の嫌味から解放されたのはそれから一時間も経ってからだった。与えられた宿舎の自分の部屋へと戻る。軍服を脱ぎベッドに腰掛ける。今日ほど軍服が重いと思ったことはなかった。明かりもつけず、暗い部屋の中で思いを馳せる。過ぎ去っていった一年間を。
 自分も囚われていたのだ。
改めて気づき、苦笑が漏れる。自分が常に上位にあり、命令を下す立場にあるという意識は、いつの間にか薄れていった。ガンダムファイターとその監督という関係は共に勝利を目指すという感情を共有できるようにまでなっていた。
 それももう終わったことだ。
自分自身に呟く。これ以上、いまさら何を思う必要があるというのだろうか。





 正式に釈放の知らせが届いたのは、数日前のことだった。これで晴れて自由の身である。それなのに、心のどこかにわだかまるものがある。ファイターになると決めた時には、こんな思いを味わうなどとは想像もできなかった。
 共にガンダムファイトを戦い抜いてきた女のことを思い出す。デビルガンダムの一件以来、一体何日顔を合わせていないだろう。
いつも厳しい表情を崩さない女だった。うるさいぐらいに、いちいち戦いに口を出す女だった。それでも、共に一つのものを目指していることだけは感じていた。
「一つの勝利は二人の勝利だ」
ネオ香港の夜景を臨みながら彼女が言った言葉だった。この1年間のすべてがそこにはあった。

 アルゴ・ガルスキーは慣れない室内に半ば戸惑いながらも、そんなことをとりとめもなく考えていた。釈放が決まってから、独居房から移されたその部屋は、豪華とはいかないまでも、人間らしい生活を送ることができる最低限のものは揃えられていた。仲間たちが釈放されたことも、聞かされている。憂えることなど何もないはずだった。
 なのに、何がこんなに俺の心を掻き立てる。
ただ一人、たった一人が自分の心を乱していることにアルゴは気づいていない。




 扉を叩く音が聞こえる。
夜中を過ぎようかという時刻に、自分を訪ねる者など心当たりがあるはずもなく、アルゴは不審に思いながらも戸口へと近づいた。
「私だ」
聞き覚えのある声。否、ずっと聞いてきた声。凛としてよく通るその声の主をアルゴはよく知っていた。
「ナスターシャ?」
ドアを開ける。目の前にナスターシャが立っていた。初めて見る、軍服ではない彼女――ネオ香港の一夜を除けば、ということだが――は、ちょっといいか、と言いながら部屋へと足を踏み入れた。
 すれ違いざまに香る匂い。甘く、眩暈を起こしそうな。仄かに香りながら、その香りに酔いそうになる。
「酒を、飲んでいるのか?」
「…悪いか?私だって酒くらい飲む時もあるさ。話したいことがある」
硬いベッドに腰掛けて、ナスターシャはアルゴを見上げる。薄暗い部屋の中で、微かに頬に紅みがさしているように見えた。アルゴはその場に立ち尽くしたまま、彼女の話に耳を傾ける。



 「クビということか」
自分と同じことを言う目の前の大男に微笑を返して、一言、ああと頷く。普段から口数の少ないこの男は一言一言が無骨で、そして暖かい。
「軍規違反なんだそうだ。これでも軽い方らしい。極東支部へと異動が決まった」
極東支部とは文字通り、ネオロシアの辺境に置かれた名前ばかりの支部だった。軍人として何をするでもない。厳しい環境の中で、それでも軍規を守りながら非生産的な日常を過ごすための檻のない監獄だった。
「行くのか」
「…命令だからな」
軍人にとって、命令は絶対だ――笑いながらそう答える女の心情など、わかるはずもない。アルゴはナスターシャのそのような態度に苛立ちを覚えながらも、自分の感情がスムーズに言葉にならないことに、余計に苛立つ。




 「あんたは…」
ずっと共にあるものだと思っていた。彼女もそのつもりだと思っていたのは、自分の驕りか。共に海賊になるという冗談を本気にしていたのは自分だけだったのか。
「こうなることはわかっていたさ」
自嘲ともとれる微笑を口元に浮かべてナスターシャは言う。所詮、共にあることなど出来ないのだ、と。
「一年、か」
――色々あった。
「お前はどうする?」
扉の前に立ち尽くしたままの大男をナスターシャは見上げた。アルゴは一言一言をゆっくりと選びながら言葉を紡ぐ。
「…海賊に・・・戻るつもりだ。…あいつらが待っているからな。ファイトは…」
ガンダムファイト。
自分よりも強い相手と戦った。自分という存在を確かめられる場所だった。いい仲間ともめぐり合えた。そして、一つの絆も――。
「もう、ファイターである理由がなくなったな」
ナスターシャが言う。そのとおりだった。しかし、そんなことよりも――。
「話はそれだけだ。邪魔したな」
微笑んで――けれど、泣き出しそうな表情に見えたのは気のせいではないと思う――ナスターシャは立ち上がった。そのままアルゴの脇を通り抜け、ドアへと手をかける。





 「待ってくれ」
振り返って、アルゴはナスターシャの腕をつかむ。少しでも力をこめれば壊れてしまいそうな華奢な腕をそれでも放さない。



 行ってしまう。
 彼女は行く。



 こんなにも感情が溢れてくることなど、今までなかった。上手く言葉が出てこない。
 それでも。
 放す訳にはいかない。




 「俺はっ・・・・・・」



 アルゴは想う。



 二人の絆を失くすわけにはいかない。








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